目次
いつもの保険のおばちゃん
会社員の石田(いしだ)の職場には、週に一度、昼休みにやってくる保険のおばちゃんがいた。
名前は坂本さん。笑顔が優しく、いつもお菓子や粗品を持って現れる、ごく普通の「職場の顔」だった。
ただ、坂本さんにはひとつだけ奇妙な噂があった。
「坂本さんが新しい保険のプランを勧めた相手は、必ず数日以内に“何か”ある」
交通事故、骨折、家族の病気、災難。
それを知ってか知らずか、坂本さんは毎週、誰かを静かに指名して声をかける。
勧められた日
ある週の火曜日、石田は昼休みのデスクで坂本さんに声をかけられた。
「石田さん、もしもの時の入院特約、今なら条件が良いんですよ。おすすめです。」
特に体調も悪くないし、事故の心配もない。断ろうと思ったが、なぜか断りきれず、契約書にサインしてしまった。
翌日の夜、石田は信号待ちをしていたとき、突然背後から自転車にぶつかられて転倒。
肋骨にひびが入る軽い怪我を負った。
「……まさか……」
保険は、もちろん契約が間に合っており、スムーズに治療費が支払われた。
だが、その偶然にしてはできすぎた流れが、石田の心に不気味な引っかかりを残した。
坂本さんの記録
しばらくして、石田は同僚と飲みの席でこの話題を出した。
すると同僚も同じ経験をしていた。
「俺も数年前に勧められた翌週、家族が交通事故に遭ったよ。契約してて助かったけど……。」
別の同僚も、祖母が急病になる直前にプランを変えさせられていた。
坂本さんは、なぜ“予知”したように保険を勧めるのか?
そんな疑問が職場で密かに広まり始めた。
知っていた存在
ある日、石田は帰り道、偶然坂本さんと駅で鉢合わせた。
「石田さん、次の更新、そろそろですよ。……今のうちに、死亡保険も見直しませんか?」
その瞬間、鳥肌が立った。
「……死亡保険?」
「ええ、備えておけば、ご家族も安心ですから。」
その夜、石田は眠れず、翌朝、予定より早く出勤した。
すると、出社途中の交差点で、昨夜信号機が倒れる事故が起きたことを知る。
もしいつも通り出勤していれば——間違いなく下敷きになっていた場所だった。
いつもの笑顔
石田は、その翌週、そっと坂本さんに尋ねた。
「……どうして、あんなにタイミングよく勧められるんですか?」
坂本さんはいつもの穏やかな笑顔でこう答えた。
「だって私、必要な人の顔、分かるんです。」
そう言って帰っていく坂本さんの背中を見送りながら、石田は思った。
「もしかして坂本さんは、“事故が起こること”を知ってるんじゃなくて——
その未来を、変えないために保険を売っているのかもしれない。」
消えた保険のおばちゃん
数ヶ月後、坂本さんは担当から外れ、職場に来なくなった。
「坂本……さん?そんな方、うちにはいませんよ。」
その日から、石田のスマホには時折、番号非通知で着信が入る。
留守番電話には、あの懐かしい声が一言。
「もしもの備え、忘れずにね。」
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