怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

「消えた駅:異世界への扉」(怖い話、奇妙な話)

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これは、私が大学を卒業して数年後、仕事で地方に出張した時に体験した奇妙な出来事です。その地方都市は、私にとって初めて訪れる場所であり、仕事の合間に観光するのを楽しみにしていました。しかし、あの出来事が起こるまでは、そんな無邪気な期待を抱いていたのです。

出張の最終日の前日。その日は仕事を終え、ホテルに向かうため私はその地方の鉄道に乗っていました。普段と違う出張先の風景を見ていると、ふと思いつき、観光ガイドには載っていない小さな駅に降り立つことにしました。その駅の名前は「霧影駅(きりかげえき)」と言いましたが、どこか聞き覚えのない名前でした。

電車を降りると、駅は薄暗く、ひっそりとしていました。まるで時が止まったような雰囲気で、誰一人見当たりませんでした。駅舎も古びており、長い間使われていないように見えました。それでも好奇心に駆られ、駅の外へ出てみることにしました。

駅前には小さな商店街が広がっていましたが、全ての店が閉まっており、人の気配が全くありません。夕暮れが迫っていたため、辺りは次第に暗くなり始めました。少し不安になりながらも、私は歩みを進めました。

歩いていると、一軒の古い喫茶店が目に入りました。店内には明かりが灯っており、営業しているように見えました。少し休憩しようと思い、ドアを開けて中に入りました。店内は暖かく、ほのかなコーヒーの香りが漂っていました。

カウンターの奥には年配の女性が立っており、私に微笑みかけました。「いらっしゃいませ」と優しく声をかけられ、私はカウンターに座りました。コーヒーを注文すると、女性は手際よく淹れてくれました。

私はコーヒーを飲みながら、女性と少し話をしました。彼女はこの町に長く住んでいるようで、ここには昔から不思議な出来事が多いと教えてくれました。彼女の話に耳を傾けながらも、私はどこか現実感のない雰囲気に包まれていることに気づきました。

しばらくして、時計を見ると既に夜になっていました。そろそろ帰らなければと思い、女性にお礼を言って店を出ました。駅に戻る途中、再び商店街を通りましたが、どこか異様な静けさが漂っていました。まるで全ての音が消え去ったかのような感覚でした。

駅に到着し、次の電車を待っていましたが、なかなか来る気配がありません。時刻表を確認しようとしましたが、駅舎の中は真っ暗で、電気も点いていませんでした。不安が募る中、ようやく電車の明かりが遠くに見えました。

電車が到着し、私は急いで乗り込みました。しかし、車内は誰もおらず、薄暗いままでした。座席に座り、電車が動き出すのを待っていると、次第に眠気が襲ってきました。疲れていた私は、そのままうとうとと眠りに落ちました。

目が覚めると、電車は既に私が知っている駅に到着していました。驚いて外に出ると、そこは確かに現実の世界でした。安心しながらホテルに戻りましたが、あの霧影駅のことが頭から離れませんでした。

翌日、出張の最終手続きを終えて帰る前に、もう一度あの霧影駅を確認したくなりました。駅員に尋ねると、彼は不思議そうな顔をしました。「霧影駅?そんな駅はこの路線にはありませんよ」と言われ、私は驚きました。地図を確認しても、霧影駅など存在しないのです。

私があの日見たものは一体何だったのか。あの喫茶店や商店街はどこに消えたのか。まるで夢の中で迷い込んだかのような出来事でした。友人や同僚に話しても、皆信じてくれませんでした。自分自身も、あれが現実だったのか疑わしく感じることがあります。

その後も、私は何度かあの地方都市を訪れる機会がありましたが、霧影駅に再び辿り着くことはありませんでした。あの奇妙な体験は、まるで異世界への一瞬の訪問だったのかもしれません。

私たちの世界には、まだまだ未知の領域が存在しているのかもしれません。あの霧影駅のように、現実と夢の境界が曖昧になる場所が。これからも、そんな奇妙な出来事に出会うことがあるのかもしれませんが、あの時の恐怖と不思議な感覚は、今でも私の心に深く刻まれています。

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