ある夏の終わり、大学生の高木亮介は家族と一緒に田舎の祖父母の家に帰省していました。田舎の風景や静かな環境は、忙しい都会生活から解放されたような気分にさせてくれます。亮介は特に近くの山道を散策するのが好きでした。そこには小川が流れ、木々が生い茂り、鳥のさえずりが聞こえる自然豊かな場所です。
その日も亮介はいつものように山道を散歩していました。山道は子供の頃から何度も通ったことがあるので、迷うことなどないと信じていました。しかし、その日は少し違う感じがしました。道沿いの木々や花々がいつもと違うように見え、何か不思議な気配が漂っていました。
しばらく進むと、亮介はふと見覚えのない小道を見つけました。普段は通らない道でしたが、好奇心に駆られてその小道に足を踏み入れました。道は細く、木々が密集しており、少し薄暗い雰囲気でしたが、亮介はそれほど気にせずに進んで行きました。
進むうちに、周囲の景色が急に変わり始めました。木々の間から見える空は、どんよりとした灰色に変わり、風の音も耳に不快に響くようになりました。亮介は「こんなところまで来たことはないな」と思いながらも、引き返すことなく進み続けました。
突然、前方に古びた鳥居が見えてきました。鳥居は苔むしており、長い間放置されているようでした。その先には古い神社がありました。神社の前には小さな祠があり、その周りには草が生い茂っていました。亮介は好奇心を抱きながらも、少し不安な気持ちで祠に近づきました。
祠の中を覗くと、中には古びたお札やお守りが置かれていました。それらは時代を感じさせるもので、何か神聖な雰囲気が漂っていました。亮介はその場で手を合わせ、無事に帰れるように祈りました。
祠から離れてさらに進むと、急に道が開けました。そこには大きな池が広がっており、水面は鏡のように静かで澄んでいました。池の周りには奇妙な石像が並んでおり、それぞれが異なる表情をしていました。亮介はその光景に圧倒されながらも、池のほとりに腰を下ろして休憩することにしました。
池の水面をじっと見つめていると、突然水面に自分の顔が映り込みました。しかし、映っている顔は自分のものとは少し違うように見えました。目が大きく、口元には薄く笑みが浮かんでいるようでした。亮介は驚いて後ずさりしましたが、水面に映る顔は消えませんでした。
その瞬間、池の水面から手が伸びてきて、亮介の腕を掴みました。驚いた亮介は抵抗しましたが、その手は力強く、亮介を引き込もうとしました。亮介は必死に地面にしがみつきながら、「助けて!」と叫びました。
すると、突然、周囲の景色が歪み始め、次の瞬間には亮介は元の山道に戻っていました。池も祠も、奇妙な石像も何もありませんでした。亮介は息を整えながら、夢を見ていたのかと思いましたが、腕にはまだその冷たい感触が残っていました。
家に帰ると、亮介は家族に今日の出来事を話しました。家族は心配しながらも、「そんなことがあるはずがない」と言って笑い飛ばしました。しかし、亮介の表情は真剣で、彼自身も何が現実で何が幻想なのか分からなくなっていました。
その夜、亮介は不安な気持ちで眠りにつきました。夢の中で再びあの池のほとりに立っている自分を見ました。水面には再び自分の顔が映り込み、笑みを浮かべていました。その顔が「おいで」と囁くように聞こえました。亮介はその声に引き寄せられるように、再び池に近づきました。
目が覚めたとき、亮介は汗びっしょりになっていました。夢の中の出来事が現実に影響を与えているように感じました。亮介は再びあの山道に行くことを決意しました。自分が体験したことが本当に何だったのかを確かめるために。
翌日、亮介は家族に「今日はもう一度山に行ってくるね」と伝え、同じ道をたどり始めました。昨日と同じように、桜並木を抜け、山道の入り口にたどり着きました。山道に入ると、昨日の出来事が思い出され、少し緊張しましたが、前へ進みました。しばらく進むと、分かれ道に差し掛かりました。しかし、昨日入ったはずの分かれ道が見当たりません。何度も見渡し、歩き回りましたが、分かれ道の痕跡はどこにもありませんでした。
「確かにここだったはずなのに…」亮介は戸惑いながらも、そのまま進み続けることにしました。進むうちに、ふと目の前に昨日見た祠が現れるのではないかという期待と不安が入り混じっていました。しかし、どこにも祠は見当たりませんでした。
亮介はさらに進んでみることにしましたが、昨日のような迷うことはなく、いつもの山道を歩き続けることができました。
その後、亮介は家に戻ることにしました。家に帰り着くと、家族に再び今日の出来事を話しました。家族は不思議そうにしながらも、亮介が無事に帰ってきたことを喜びました。
それからというもの、亮介は再び山道を訪れることを楽しむようになりました。以前よりも山の美しさや静けさを深く感じることができるようになり、毎回の散歩が特別な時間となりました。
そして、あの迷い道の先にある不思議な出来事が、彼の心に深く刻まれたのです。
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