大学生の佐藤健太は、夏休みの間、実家に帰省していました。実家は古い一軒家で、築年数は50年以上。健太はその家で生まれ育ったため、古びた家の雰囲気に慣れていました。しかし、その家には一つだけ、不思議な部屋がありました。その部屋はいつも鍵がかかっており、家族全員が立ち入ることを避けていました。
ある晩、健太は家の中を探検しようと決心しました。小さい頃からずっと気になっていたその鍵のかかった部屋を開けてみたいという衝動に駆られたのです。家族が寝静まった深夜、健太はそっと起き上がり、母親の部屋から鍵を盗み出しました。
鍵を手に入れた健太は、薄暗い廊下を進み、例の部屋の前に立ちました。錆びついた鍵穴に鍵を差し込み、ゆっくりと回すと、重い音を立てて扉が開きました。健太は手探りで電灯のスイッチを探し、部屋の中を照らしました。
部屋の中は埃まみれで、長い間誰も入っていないことが明らかでした。古い家具や箱が乱雑に置かれており、壁には奇妙な絵が飾られていました。その中でも一番目を引いたのは、大きな古びた鏡でした。鏡は部屋の奥に立てかけられており、異様な存在感を放っていました。
健太は鏡に近づき、鏡面を覗き込みました。鏡には自分の姿が映っていましたが、よく見ると、背後に何か影のようなものが動いているのが見えました。健太は驚いて振り返りましたが、部屋の中には誰もいませんでした。再び鏡を見ると、影は再び現れ、今度は明確に人の形をしていました。影の顔は真っ黒で、目だけが白く光っていました。
その瞬間、鏡から冷たい風が吹き出し、健太は鏡に吸い寄せられるような感覚を覚えました。必死に後退りし、なんとか鏡から離れることができましたが、その影は鏡の中で不気味な笑みを浮かべていました。
怖くなった健太は急いで部屋を出て、鍵を掛け直しました。その晩は何事もなく過ぎましたが、翌日から奇妙な出来事が続きました。家の中で何度も背後に誰かの気配を感じたり、寝ている間に誰かが囁く声が聞こえたりするようになったのです。
健太は家族に相談しましたが、誰も信じてくれませんでした。それどころか、母親は「そんなことは気のせいだ」と言って笑い飛ばしました。仕方なく、健太は一人でこの現象に立ち向かう決心をしました。
ある晩、健太は再び例の部屋に行くことを決意しました。今回はお守りや懐中電灯を持ち、準備万端で臨みました。再び鍵を開け、部屋に入ると、鏡は前回と同じようにそこにありました。健太は深呼吸をして、鏡の前に立ちました。
「お前は誰なんだ?何が目的なんだ?」健太は鏡に向かって問いかけました。しかし、鏡の中の影はただ不気味な笑みを浮かべるだけでした。その時、突然部屋の温度が急激に下がり、息が白くなるほど寒くなりました。影はゆっくりと鏡から這い出してきて、健太に向かって手を伸ばしました。
恐怖で動けなくなった健太の目の前で、影の手が彼の肩に触れた瞬間、彼の意識は途絶えました。気が付くと、健太は自分の部屋のベッドに横たわっていました。全てが夢だったのかと思いましたが、肩には冷たい感触が残っており、鏡の部屋に入った時の記憶が鮮明に蘇りました。
その後も、健太は鏡の影の存在に悩まされ続けました。家の中で何度も影の姿を見かけるようになり、精神的にも追い詰められていきました。最終的には、実家を離れ、大学の寮に戻ることにしました。
後日談
数年後、健太は大学を卒業し、都会で働き始めました。実家に帰ることは少なくなりましたが、ある日、母親から電話がかかってきました。
「健太、ちょっと話があるの。実家で不思議なことが続いていて…」
健太は母親の話を聞きながら、嫌な予感がしました。母親によると、家の中で不気味な影を見かけるようになり、夜中に囁く声が聞こえるとのことでした。
「まさか、あの影がまだ…?」健太は驚きましたが、すぐに実家に戻ることにしました。
実家に到着した健太は、家の中を調べ始めました。例の部屋に入ると、鏡は依然としてそこにありました。鏡の前に立つと、再び背後に影の気配を感じました。振り返ると、そこにはあの不気味な影が立っていました。
「お前はまだここにいたのか…」健太は呟きました。その瞬間、影が一歩一歩近づいてきました。健太は恐怖で動けなくなり、影が彼に囁きました。
「お前もこちら側に来い…」
健太は意識を失い、その場に倒れました。家族が駆けつけた時、健太は気絶しており、救急車で病院に運ばれました。
その後、健太は意識を取り戻しましたが、記憶が曖昧で、何が起きたのかはっきりと覚えていませんでした。しかし、彼の背後にはいつも影の気配がつきまとうようになりました。鏡の中の影は、彼を逃がさず、いつまでも追いかけてきたのです。
そして、健太の家族も次第に影の存在に気づき始めました。夜中に囁く声や、家の中での不気味な気配に悩まされるようになり、家族全員が不安を抱えるようになりました。
最後に、健太の母親が再び例の部屋に入った時、鏡の中に何かが映り込んでいるのを見つけました。それは、健太の姿でした。彼の目は真っ黒で、不気味な笑みを浮かべていました。
家族はその家を手放し、別の場所に引っ越すことを決意しました。しかし、引っ越し先でも影の気配は消えることなく、彼らを追い続けました。影は、一度つかんだ獲物を決して逃さないのです。
影の追跡は永遠に続き、健太とその家族は二度と安らかな日々を取り戻すことはありませんでした。影は、どこまでも彼らを追いかけ、絶望と恐怖の中に閉じ込め続けるのでした。
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