怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

「夏休みの夜の幻」 (怖い話 奇妙な話)

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僕の名前は健太、今年で10歳になる小学生だ。これは僕が夏休みに体験した、不思議な話だ。

その日、夏休みの真っ只中だった僕は、いつものように友達の翔太と一緒に遊んでいた。夕方になり、暑さも少し和らいできた頃、翔太が突然こんなことを言い出した。「なぁ、健太。今夜、あの遊園地に忍び込んでみないか?」

近所にある小さな遊園地は、遊園地というには小さくて、昔は賑わっていたが、今はすっかり寂れてしまい、訪れる人もほとんどいなかった。それでも僕たちは、子供たちだけでこっそり忍び込むことに心躍らせた。

夜9時過ぎ、僕たちは家族に「ちょっと散歩に行ってくる」と言い残し、懐中電灯を持って遊園地へ向かった。遊園地の入口は錆びついた鎖で閉じられていたが、裏手のフェンスに穴が開いていて、そこから中に入ることができた。

遊園地の中は、昼間でも薄暗く不気味だったが、夜になるとさらにその雰囲気は増していた。僕たちはお互いに笑いながらも、少しの緊張感を感じていた。古びたメリーゴーランドや動かない小さな観覧車を通り過ぎ、園内を探検していると、突然、僕たちは見たこともないアトラクションを発見した。

それは、周りのしょぼくれた遊具とは一線を画す、最新のバーチャルリアリティーの施設だった。施設の前には、黒いスーツを着た男メンテナンスのため作業をしていた。その男は私たちに気づいたのか、僕たちの方を振り返った。驚きと興奮のあまり、僕たちは無言で見つめ合ったが、その男が僕たちに向かって手招きをした。

「君たち、こっそり楽しみたいなら入ってみるかい?」その男は優しい声で話しかけてきた。

僕たちはお互いに顔を見合わせた。こんな夜中に遊園地に係員がいるなんて、おかしいと思ったが、好奇心が勝ってしまった。「うん、入りたい!」僕たちは声を揃えて答えた。

男は微笑み、僕たちを中に案内してくれた。施設の中は、未来的なデザインで、まるでSF映画のセットのようだった。ヘッドセットを装着し、座席に座ると、目の前の世界が一変した。僕たちはまるで本物の冒険をしているかのようなリアルな体験をした。空を飛んだり、宇宙を旅したり、恐竜のいる時代にタイムスリップしたり、現実ではありえない体験が次々と繰り広げられた。

体験が終わった時、僕たちは興奮と感動に包まれていた。「すごかったね!あんなの初めてだよ!」と翔太が叫び、僕も「本当に夢みたいだった!」と同意した。
僕たちは、もう一度乗りたいと黒いスーツの男に言った。
しかし、男は、「ごめんね、いまメンテナンス中だから無理なんだと」と答えた。
僕たちは、残念ながらもお礼を言って、その場を去った。

帰り道、僕たちはその体験を何度も語り合い、興奮冷めやらぬまま家に帰った。次の日、またあのバーチャルリアリティーのアトラクションに行きたいと思った僕たちは、遊園地が開いている時間に訪れることにした。

しかし、昼間の遊園地は、相変わらずの寂れた様子で、あの最新のバーチャルリアリティー施設など見当たらなかった。僕たちは係員に尋ねてみたが、そんな施設は存在しないと言われてしまった。

「そんなはずない!昨晩あそこで体験したんだ!」と僕たちは口々に主張したが、係員たちは首をかしげるばかりだった。結局、僕たちはその場を立ち去るしかなかった。翔太と僕は、あの夜の出来事が現実だったのか、ただの夢だったのか分からなくなった。

時は流れ、翔太は小学校の途中で転校してしまい、僕たちの連絡は途絶えてしまった。それでも、僕はあの夜の体験を忘れることができなかった。大人になった今でも、あのアトラクションの鮮明な記憶が蘇ることがある。
その思い出が僕にとっての宝物であり、子供時代の冒険の象徴であることを感じる。あの不思議な体験は、僕の心の中でずっと生き続けるのだ。

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