ケンジは30代の会社員。毎日、忙しい業務に追われ、日々の疲れを感じながらも、仕事に精を出していた。そんなある日の夜、ケンジは自宅のソファに座り、スマートフォンをいじっていた。SNSの通知が一つ表示された。「T.K」からのメッセージだ。ケンジは見知らぬ名前に眉をひそめ、メッセージを開いた。
「よぉ、久しぶり、元気にしてっか?」
唐突でなれなれしいメッセージに戸惑ったケンジは、誰だろうと考え込んだ。間違いメッセージかもしれないと思いつつも、返信することにした。
「誰ですか?」
すぐに返事がきた。
「ケンジ、ひどいなぁ。忘れちゃったのかよ。」
自分の名前を知っているということは、知り合いである可能性が高い。しかし、ケンジには「T.K」というイニシャルの知り合いの記憶がなかった。
「誰だかわかんないよ」
そう返信すると、相手から全く違う話題が送られてきた。
「そういえば、まだトコちゃんカップラーメン食ってんの?」
その瞬間、ケンジの胸がドキリとした。トコちゃんカップラーメンは高校生の頃から好きで、いまだによく食べている。しかし、そのことを知っているのは限られた親しい友人だけだった。
「食ってるよ、いまだに好きだよ」
相手が再び返信してきた。
「変わんねぇな」
ケンジはそのメッセージを見て、ますます疑問を深めた。知り合いに違いないが、一体誰なのか。とはいえ、妙に気が合う相手とのやりとりは、次第に楽しみとなっていった。彼は毎日のように「T.K」とメッセージを交換し始めた。
目次
不思議な友情
ケンジは「T.K」とのメッセージ交換を日々の楽しみに感じるようになっていた。仕事でのストレスや、人には話しづらい悩みも「T.K」に相談することが増えた。「T.K」は親身に聞いてくれ、的確なアドバイスをしてくれた。その存在がケンジにとって心の支えになっていた。
しかし、ある日、ケンジは思い切って「T.K」に通話をかけてみることにした。誰なのかを確かめたいという気持ちが抑えきれなくなったのだ。しかし、通話は拒否されてしまった。
「通話かけてくんなよ(笑」そうメッセージが返ってきた。
ケンジは落胆したが、それでも「T.K」とのやりとりを続けることにした。不思議な友情が芽生えているように感じていたからだ。
予感と確信
ある日、ケンジは仕事から帰宅し、ソファに座って「T.K」とのやりとりを振り返っていた。ふと、「T.K」というイニシャルに引っかかるものを感じた。彼の心に浮かんだのは、亡くなった親友のカワタタカヤだった。
タカヤは高校時代の親友であり、ケンジとは深い絆で結ばれていた。しかし、タカヤは高校卒業後に重い病にかかり、若くして亡くなってしまった。ケンジにとってタカヤの死は大きなショックであり、未だに彼のことを忘れることができなかった。
「まさか、そんなはずはない」と思いながらも、ケンジは胸の高鳴りを抑えきれなかった。思い切って「T.K」にメッセージを送った。
「お前、タカヤか?」
心臓が高鳴る中、返事を待つ。すると、「T.K」からすぐに返信がきた。
「ばれちゃったか、そうだよタカヤだよ。じゃあこれを最後のメッセージにするよ」
ケンジの心は混乱した。どういうことなのか、理解が追いつかなかった。
「なんだよ。これからも続けようぜ」
ケンジは必死に返信した。しかし、返ってきたのは悲しげなメッセージだった。
「ばれたら終わり、そういうもんだろ、じゃあな、元気でな」
それを最後に、「T.K」からのメッセージは途絶えた。何度送っても、もう返信はなかった。
真実と希望
ケンジはスマートフォンを握りしめ、涙を流した。あのメッセージは本当にタカヤからのものだったのだろうか。信じたい気持ちと、信じられない現実の間で揺れ動いた。しかし、心の奥底では、タカヤが奇跡的に戻ってきてくれたのだと信じていた。
それ以来、ケンジはタカヤとの思い出を胸に刻みながら、日々を生きていくことにした。「T.K」とのやりとりは、彼にとって大切な宝物となった。タカヤがくれたアドバイスや励ましの言葉は、今後も彼の心の中で生き続けるだろう。
ケンジは今でも、ふとした瞬間に「T.K」とのやりとりを思い出す。あの不思議なメッセージのやりとりは、彼にとって奇跡であり、かけがえのない思い出だ。タカヤの存在は彼の心の中で生き続け、彼を支え続けている。
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