ある静かな山村に、「恐怖の虹」と呼ばれる奇妙な現象がありました。その虹は普通の虹とは異なり、嵐の後に現れるのではなく、特定の日の夜にだけ姿を現しました。村人たちは、その虹が現れる日は決して外に出ないようにし、家に閉じこもっていました。
その虹が現れると、空には七色の美しい光が広がり、見る者の目を奪いました。しかし、その美しさには恐ろしい秘密が隠されていました。虹の下に立つと、人々は姿を消してしまうのです。村では、その虹を見た者は二度と戻ってこないと言われていました。
ある夏の日、若い探検家の健一はその村を訪れました。彼は「恐怖の虹」の伝説を聞き、その真相を確かめたいと思っていました。村人たちは健一にその危険を警告しましたが、彼はその話を信じませんでした。彼は科学的に解明できると信じ、虹が現れる日を待つことにしました。
その夜、村は静まり返り、村人たちは家の中で震えていました。健一は一人で村の外れに向かい、虹が現れる場所に立ちました。夜空には暗雲が広がり、やがて七色の虹が現れました。その虹は昼間の虹よりも鮮やかで、美しい光を放っていました。
健一は虹の下に立ち、その光をじっと見つめました。すると、急に彼の周囲の空気が変わり、体が重くなりました。彼は足元が地面から離れるのを感じ、気づいた時には完全に宙に浮いていました。健一の体は虹の光に包まれ、次第に消えていきました。
翌朝、村人たちは健一の姿が見当たらないことに気づきました。彼の持っていたカメラだけが地面に落ちており、そのカメラには虹の光を捉えた最後の写真が残っていました。それは、美しい虹の下で健一の姿がぼやけていく瞬間を捉えていたのです。
健一の失踪は村に再び恐怖を呼び起こしました。村人たちは「恐怖の虹」の存在を再確認し、ますますその虹を恐れるようになりました。虹が現れる日には、村全体が静まり返り、誰も外に出ることはありませんでした。
その後、村には健一のような探検家が何人か訪れましたが、全員が同じ運命を辿りました。彼らもまた、虹の下で姿を消してしまったのです。村人たちはそのたびに警告を発しましたが、好奇心に駆られた者たちは恐怖の虹に引き寄せられてしまうのでした。
年月が経ち、「恐怖の虹」の伝説は村の外にも広まりました。しかし、その真相を知る者は誰もいませんでした。虹が現れるたびに、その美しい光に魅了される者たちは跡形もなく消え去り、伝説はさらに深まるばかりでした。
村人たちは今もその虹を恐れ、家族や友人たちを守るために、その日が来るたびに家の中で静かに過ごしています。そして、「恐怖の虹」が再び現れる日を恐れながら、夜空を見上げるのでした。
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