出張先の古い街角。ひょっとこ顔の看板が目印の雑貨屋に、彼は足を踏み入れた。店内は、埃っぽい古時計や、色褪せた絵画など、時が止まったかのような空間が広がっていた。
「何か変わったものはないか…」
そう呟きながら、店の中を物色していると、ショーケースの中にひっそりと置かれた小さな鉢植えが目に入った。
「これは…」
幹はこげ茶色で、葉は濃い緑。どこか見覚えのある形をしているのに、名前が出てこない。店主によると、珍しい品種の木で、実がなるらしい。
「実ですか?どんな実がなるんですか?」
「それがねぇ、週に一度、必ず面白い形のものができるんですよ。どんな形になるかは、植えた人の心の状態によって変わるって言い伝えがあるんです」
店主の言葉に、彼は不思議な魅力を感じた。出張の土産に、そして自分へのご褒美にと、その鉢植えを購入した。
持ち帰るには少々邪魔だったが、大事に抱えて自宅に持ち帰ると、明るい窓辺に置いた。毎日水をやり、話しかけながら、その木を育てるようになった。
最初の実は、出張で疲れていた彼の心を和ませるような、丸くて小さなリンゴの形だった。次の週には、彼の好きなキャラクターの形をした実がなり、彼は思わず笑ってしまった。
毎週のように、その木は彼を驚かせるような実をつけた。彼の心の状態を映し出すかのように、実の形は多種多様だった。
仕事で悩んでいる時は、複雑な形の結晶のような実が、嬉しいことがあった時は、太陽のような丸い実がなった。
その木は、単なる植物ではなく、彼の心の鏡のような存在になっていった。
ある日、彼は大きなプレゼンテーションを控えていた。緊張と不安で、夜も眠れない日々が続いた。
そんな時、いつも通り木に水をやると、小さな芽が出ていることに気づいた。
「これは…?」
次の日、芽は大きく成長し、花を咲かせた。そして、数日後、その花は実になった。
実の形は、彼が今まで見たことのない、複雑で美しいものであった。それは、まるで彼の心の奥底に隠された、希望の光を映し出しているようだった。
プレゼンテーション当日、彼はその実をポケットに入れ、会場に向かった。
プレゼンテーションは成功し、彼は大きな拍手を受けた。
後日、彼は再びその雑貨屋を訪れた。
「あの木、元気にしてますか?」
店主に聞かれると、
「はい、元気に毎週、色々な実をつけてくれます」
と答えた。
「君が育てているから、きっとたくさんの面白い実をつけてるだろう」
店主の言葉に、彼は微笑んだ。
彼は、その木をこれからも大切に育てていくつもりだった。
それは、単なる植物ではなく、彼の人生を豊かにする、かけがえのない存在だったのだから。
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