怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

電話が鳴り続ける (怖い話 奇妙な話 不思議な話)

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その夜、私は珍しく早めに寝ることにした。長引く残業続きで疲れが溜まり、深い眠りに落ちていた。時計の針が午前2時を指す頃、突然、枕元に置いた固定電話がけたたましく鳴り響いた。普段はほとんど使わないその電話が、深夜に鳴るのは初めてのことだった。

半ば寝ぼけながら、私は電話に手を伸ばした。何か緊急の連絡かもしれない、そう思って受話器を耳に当てたが、相手は何も言わない。ただ、静寂が流れているだけだった。「もしもし?」と声をかけたが、反応はない。しばらく待ってみても、無言のまま。まるで、こちらの様子を伺っているかのような沈黙が続いた。

気味が悪くなって電話を切ると、部屋の中に再び静寂が戻った。おそらく間違い電話だろうと自分に言い聞かせ、布団に潜り込んだ。だが、まもなくして再び電話が鳴り出した。

今度は完全に目が覚めた。心臓が早鐘を打ち、手が汗ばんでくる。再び受話器を取ると、またしても無言のままだ。呼吸音すら聞こえない、ただの無音。その静けさがかえって不気味で、私は恐怖を感じた。「誰かいるんですか?」と問いかけたが、返事はなかった。

不安と恐怖がじわじわと広がり、私は電話を切った。しかし、その直後に再び電話が鳴り始めた。まるで、相手がこちらの反応を楽しんでいるかのように、執拗に電話がかかってくる。私は恐怖に駆られ、電話線を抜こうとした。だが、その瞬間、受話器からかすかに声が聞こえたのだ。

耳を澄ますと、それはまるで遠くから誰かが何かを囁いているようだった。しかし、その声ははっきりと聞き取れず、不明瞭な言葉が繰り返されるだけだった。まるで古いラジオの雑音のように、不規則で意味の分からない音が混じっていた。

それでも耳を凝らして聞き取ろうとすると、その囁きは次第にクリアになり、何かを訴えかけていることが分かってきた。「……聞こえる……?」かすれた声が微かにそう言っている。まるで、何かを伝えようとしているようだった。だが、その声は異様に冷たく、背筋に寒気が走った。

私は恐怖のあまり、受話器を投げ出した。そして、決意して電話線を引き抜いた。これで電話は鳴り止むはずだ——そう思った瞬間、電話がまた鳴り始めた。信じられないことに、電話線が繋がっていないのに電話は鳴り続けているのだ。

パニックに陥り、私は手で耳を塞いだが、電話のベル音はますます大きくなり、頭の中で響き渡るようだった。絶え間なく鳴り響く音の中で、再びあの囁き声が聞こえてくる。「……聞こえる……聞いて……」

声は徐々に近づいてくるように感じた。もはや電話の向こうではなく、部屋の中にその声が響いているようだった。私は恐怖のあまり叫びたくなったが、声が出ない。全身が凍りついたように動けなくなり、ただその場に立ち尽くすしかなかった。

その時、部屋の暗がりから、何かがこちらをじっと見つめているのを感じた。見えないはずの何者かの視線が、鋭く突き刺さるように私を捉えていた。心臓がバクバクと鼓動し、冷や汗が背中を伝う。恐る恐る視線をそちらに向けると、そこには真っ黒な影のようなものがぼんやりと浮かんでいた。

その影はゆっくりと、しかし確実にこちらに近づいてくる。そして、影と同時に、電話からも囁き声が繰り返される。「……聞こえる……ずっと……」

私は耐えられず、部屋から飛び出した。玄関のドアを開け、外に出るとようやくあの不気味な音と声から解放された。外は冷たい夜風が吹き抜け、深夜の静けさが支配していた。だが、背後の部屋では、未だに電話のベルが鳴り続けているような気がした。

私はしばらく外に立ち尽くし、震える手で携帯電話を取り出した。友人に助けを求めようとしたが、時間は午前3時過ぎ、こんな時間に誰も出ないだろうと思い直し、そのまま夜が明けるのを待つことにした。

朝になり、恐る恐る部屋に戻ると、信じられないことに電話は静まり返っていた。まるで何事もなかったかのように、ただの無機質な受話器が置かれているだけだ。しかし、恐怖はまだ私を支配していた。あの囁き声は一体何だったのか? なぜ電話線を抜いても鳴り続けたのか?

私はすぐにその部屋を引き払い、新しい場所へ引っ越した。それ以来、奇妙な電話がかかってくることはなくなったが、夜中に突然目が覚めることが増えた。そのたびに、頭の中であの囁き声が蘇る。「……聞こえる……ずっと……」

今でも電話のベルが鳴ると、あの夜の恐怖がフラッシュバックする。もしかしたら、あの声は今もどこかで誰かに囁き続けているのかもしれない。そして、再び私の耳に届いた時には——今度こそ、逃げ切れるのだろうか。

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