怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

古い鏡に映るもう一人の自分 (怖い話 奇妙な話 不思議な話)

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祖母が亡くなったとき、私は彼女が愛用していた古い鏡を譲り受けた。それは年代物で、重厚な木枠に彫刻が施された立派な鏡だった。幼い頃、祖母の家を訪れるたび、その鏡を眺めていた記憶がある。しかし、どこか不気味な雰囲気を感じていたため、近づくことはほとんどなかった。

引っ越しを機に、私はその鏡を自分の部屋に置くことにした。新しい部屋は少し狭く、その鏡が部屋の中心を占めるようになった。初めて見たときの印象と同じく、どこか不気味さを感じたが、祖母との思い出もあり、特に気にせず毎日を過ごしていた。

しかし、その鏡に異変が現れ始めたのは、引っ越しから数日後のことだった。朝、身支度を整えるために鏡の前に立つと、どうも自分の姿が歪んで見えることに気づいた。光の加減かとも思ったが、角度を変えても、なぜか鏡に映る自分の顔は少し不自然だった。頬がわずかに引きつり、目が僅かに暗く沈んでいるように見える。違和感を覚えながらも、気のせいだと自分に言い聞かせ、その日はそれ以上考えないようにした。

日が経つにつれて、違和感はさらに強くなっていった。鏡に映る自分の姿が、どうにも気味が悪い。表情がわずかに遅れて変わるように感じるのだ。私が笑顔を作っても、鏡の中の自分は少し遅れて反応する。あるいは、私が無表情のとき、鏡の中の自分がかすかに口元を動かしているように見えることもあった。

「気のせいだ」と何度も自分に言い聞かせたが、その不自然さは次第に無視できないレベルに達していった。夜になると、鏡が妙に気になって仕方がない。暗闇の中で、ふと鏡に目を向けると、そこにいる自分が、まるでこちらを監視しているかのような気配を感じる。

そして、ある夜、ついに恐ろしい出来事が起こった。

その日はいつもより疲れており、早めに布団に入ることにした。部屋の電気を消し、ベッドに横たわって目を閉じる。だが、どうしても寝付けない。何かが気になって仕方がないのだ。胸の中に不安が広がり、視線が自然と鏡の方に向いた。

暗闇の中で、鏡はぼんやりと光を反射している。だが、そこに映る自分の姿が、何かおかしい。私は布団の中からそっと身を起こし、鏡をじっと見つめた。最初は何も異常はなかったが、次第に、映っている自分がまるで別人のように感じ始めた。何かが違う——だが、それが何かははっきりと分からない。

私は恐る恐るベッドから降り、鏡に近づいた。そして、そこで愕然とした。鏡の中の私は、確かに私自身の姿をしているが、目が真っ黒に塗りつぶされていたのだ。白目がなく、瞳が闇に溶け込んでいるかのように見える。さらに、その顔は無表情で、どこか空虚な雰囲気を漂わせていた。

背筋が凍りつき、全身が硬直した。動けない。視線を外そうとしても、鏡の中の「私」から目が離せない。冷たい汗が額を伝い、息が荒くなった。そのとき、鏡の中の「私」が突然、にたっと笑った。私は声を出すこともできず、その場に立ち尽くした。

すると、鏡の中の「私」がゆっくりと動き出した。私の動きとは完全に独立している。鏡越しにこちらをじっと見つめ、顔が徐々に歪んでいく。その笑みはどこか邪悪で、まるで私を挑発するかのようだった。

恐怖が限界に達し、私は叫び声を上げてしまった。そして、その瞬間、意識がふっと途切れ、目の前が真っ暗になった。

気がつくと、私は床に倒れていた。冷たい床の感触と、まだ残る恐怖の余韻が現実に引き戻した。何とか体を起こし、震える手で電気をつけた。部屋は元の静かな空間に戻っていたが、あの鏡だけは異様な存在感を放っていた。

恐怖に駆られた私は、すぐにその鏡を布で覆い隠した。それ以来、鏡に映る自分を見ることができなくなった。あの鏡は今も部屋の隅に置かれているが、もう二度とその覆いを外すつもりはない。あの「私」が再び現れるのではないかという恐怖が、どうしても拭えないのだ。

それからしばらくして、私はその鏡を処分することに決めた。リサイクルショップに持ち込んだが、店主は一目見るなり、「これは買い取れません」と冷たく言い放った。理由を聞いても答えてはくれず、私は仕方なくその鏡を廃棄することにした。

しかし、鏡を手放しても、夜になるとあの視線を感じることがある。ふとした瞬間、鏡に映るはずのない「私」が、どこかでじっとこちらを見つめているような感覚が拭えないのだ。

今夜も、鏡の中の「私」はどこかで私を見ているのだろうか——その考えが頭をよぎるたび、背筋に冷たいものが走る。

もしも次に鏡を覗き込んだとき、そこに映る「私」が再び動き出したら、今度こそ逃げられないかもしれない。あの黒い瞳が、私を取り込もうと待ち構えている気がしてならないのだ。

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