怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

古いアパートの隣室から聞こえる奇妙な音:真夜中に響く『コン…コン…』の正体とは? (怖い話 奇妙な話 不思議な話)

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私は転職を機に、古びたアパートに引っ越してきた。築40年以上の建物で、家賃は安かったが、その代わりに薄暗く、廊下にはかすかにカビ臭さが漂っていた。入居者は少なく、私が住むフロアもほとんど空室だったが、引っ越し初日から気になることが一つあった。

隣の部屋から、夜中になると「コン…コン…」という小さな音が聞こえるのだ。その音は規則的で、まるで誰かが壁を軽く叩いているように感じた。最初は隣室の住人が何かしているのかと思ったが、引っ越しの挨拶をした際にわかったのは、その部屋には誰も住んでいないということだった。

空き部屋から聞こえる音に気味悪さを感じたが、仕事で疲れていた私は、気にしないことにした。音が聞こえるたびに、自分の耳を疑いながら眠りに落ちる日々が続いた。

数日後、仕事から帰って部屋に入ると、何かが変だと感じた。部屋に入るとすぐ、かすかな違和感があったのだ。家の中に誰かがいるような気配を感じたが、確認してももちろん誰もいない。しかし、その夜も例の「コン…コン…」という音は聞こえてきた。音の正体が気になり、私は音がするたびに耳を澄ませて、隣室との壁に耳を押し当てた。

その時、壁越しにかすかな声が聞こえてきた。「ねえ……助けて……」——それは、はっきりとした女性の声だった。心臓が止まりそうなほど驚いた私は、恐怖で体が固まり、その場から動けなくなった。声は再び聞こえ、「ここにいるの……助けて……」と囁いている。

恐ろしくなった私は、管理人に連絡して隣室の状況を確認するよう頼んだ。管理人は渋々ながらも部屋を確認したが、やはり誰も住んでおらず、部屋には異常はないと言う。私は納得できず、その夜も不安を抱えたまま過ごした。

その翌日、さらに奇妙な出来事が起きた。仕事から帰ると、玄関ドアに一枚の紙が貼られていた。そこには、「夜中に隣室の壁を叩かないでください。迷惑です。」と書かれていたのだ。私は愕然とした。私は何もしていない。むしろ、音が気になっていたのは私自身だったからだ。

誰かのいたずらかと思ったが、その夜、音はさらに強くなり、「コン…コン…」から「ドンドン…」という重たい音に変わっていった。もう耐えられないと感じた私は、再度管理人を呼び、隣室の内部を詳しく調べてもらうことにした。

管理人は嫌々ながらもドアを開け、中に入った。私は恐る恐るその後をついていった。部屋の中は想像以上に古びており、壁には無数のシミやひび割れが広がっていた。そして、ある壁の一部が不自然に膨らんでいることに気づいた。

管理人がその壁を軽く叩いた瞬間、壁が崩れ落ち、中から驚くべきものが現れた。それは、ぼろぼろの服を着た女性の姿——だが、すでに亡くなっているようだった。目が空虚で、口は大きく開かれ、まるで何かを伝えようとしたまま絶命したかのようだった。その姿は、まるで壁の中に閉じ込められたかのように見えた。

驚愕と恐怖の中、管理人はすぐに警察を呼んだ。後日わかったのは、その部屋にはかつて一人の女性が住んでおり、行方不明になっていたという事実だった。彼女はなぜか壁の中に閉じ込められ、そのまま発見されることなく亡くなっていたのだ。壁から聞こえていた「コン…コン…」という音は、彼女が助けを求めていた痕跡だったのだろう。

事件が解決してから、音は聞こえなくなった。しかし、その日以来、私は夜中にふと目が覚めると、あの女性の囁き声が耳に蘇る。「助けて……」という声が、どこかでまだ響いているような気がしてならない。

そして、今でも私は、そのアパートを通るたびに、隣室から微かに聞こえてくる音に耳を澄ませてしまう。「コン…コン…」という音が、再び聞こえてくるのではないかと——。

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