それは、大学の山岳部の合宿で起きた出来事だ。僕たちは、ある山の中腹にある古びた山小屋に泊まることになった。その山小屋は、オカルト好きの人の間では「幽霊が出る」という噂で有名な山小屋だった。しかし、オカルトなどに興味がなかった、僕たちは全く知らずにそこに泊まることを決めた。
山小屋に着いたのは夕方。周囲はすでに薄暗く、霧が立ち込めていて視界が悪かった。山小屋は老朽化が進んでおり、木製のドアは軋み、窓ガラスにはひびが入っている。まるで時間が止まったかのように、そこだけが過去の空間に閉じ込められたような不気味な雰囲気を醸し出していた。
「なんだか薄気味悪いな……」と誰かが呟いたが、僕たちはそれを笑い飛ばして、持ち込んだ食材で夕食を楽しんだ。霧がさらに濃くなる中、僕たちはその山小屋で一夜を過ごすことにした。
その夜、外は深い霧で視界はほとんどゼロ。外灯もなく、暗闇が全てを覆い尽くしている。僕たちはその静寂に耐えきれず、誰かが「外の景色でも見てみようぜ」と言い出し、智也が双眼鏡を取り出した。
「こんな霧じゃ何も見えないだろ」と僕が言ったが、智也は「いや、意外と近くのものなら見えるかも」と言いながら、窓から双眼鏡を覗き込んだ。その時、彼の顔が突然こわばり、無言で動きを止めた。
「どうした?」と訊くと、智也は何かを言いかけてから、ゆっくりと双眼鏡を僕に渡した。「お前も、これ……見てみろよ……」と、彼の声は震えていた。
僕は半信半疑で双眼鏡を受け取り、霧の中を覗いた。最初は何も見えなかったが、少しずつ視界がクリアになり、遠くにもう一つの小さな山小屋が見えた。そこは、僕たちが泊まっている小屋よりもさらに荒れ果てているようで、屋根には穴が開き、窓ガラスは割れていた。
しかし、その小屋の窓辺に、何かが動いているのを見つけた。よく目を凝らしてみると――それは人の顔だった。ぼんやりとした人影が窓越しにこちらをじっと見つめている。その顔は異様に白く、目は焦点が合っていないようだった。
「何だあれ……人なのか?」僕は動揺し、双眼鏡を下ろして肉眼で確認しようとしたが、霧が濃すぎて何も見えない。ただ、双眼鏡を通してだけ、その不気味な顔がこちらをじっと見つめているのだ。
他のメンバーも次々に双眼鏡を覗き、その顔を見た瞬間、全員が恐怖に駆られた。「あれ、本当に人か?」「ここに向かってくるんじゃないか?」不安が広がり、山小屋の中が一気に緊張感で満たされた。
「もう見るな、気味が悪い……」と誰かが言い、僕たちは一斉に窓を閉め、カーテンを引いた。誰もがその顔を忘れようとしたが、全員があの異様な目つきと白い顔に囚われていた。
その後、眠ることもできず、僕たちは夜を明かした。外からは時折、木々を揺らす風の音や、軋むような音が聞こえてきたが、誰も確認する勇気はなかった。
翌朝、僕たちは早々に山小屋を後にし、下山した。山を降りるとき、ふと気になって、僕は昨夜見たもう一つの小屋の場所を確認しようとした。しかし、そこには何もなかった。あの場所には、建物の跡さえも存在しなかったのだ。
じゃあ、あの夜に見た顔は一体何だったのか?霧の中、僕たちだけが見たその存在は、現実のものではなかったのかもしれない。
今でも、あの白い顔と焦点の合わない目を思い出すと、背筋が寒くなる。双眼鏡でしか見えなかったその姿――それは、きっと僕たちが決して見てはいけない何かだったのだろう。
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