その日は、僕と友人の悠太、涼介、そして麻美の4人で、海辺での夜釣りを楽しんでいた。場所は、地元の漁港から少し離れた静かな入り江。昼間は観光客も多い場所だが、夜になると人気がなく、波の音だけが響く不気味な場所だ。
僕たちは昼間から釣りをしていたが、なかなか大物は釣れず、夜になるにつれてだんだんと疲れてきていた。潮風が冷たくなり、海面は黒い鏡のように静かだった。釣りは一時中断し、みんなで海を眺めながら休憩することにした。
その時、ふと麻美が「あっちに灯りが見える……」と呟いた。僕たちが彼女の指さす方向を見ると、海の向こう、かなり沖の方に小さな光がぽつんと浮かんでいた。まるで船の灯りのようにも見えるが、不自然に揺れているようにも感じた。
「こんな時間に漁船が出てるのか?」涼介が疑問を口にしたが、この時間帯に漁船がいるとは思えない。それに、その灯りは一定のリズムで左右に揺れていて、普通の船の動きとは違うように見えた。
悠太が持っていた双眼鏡でその灯りを覗いてみることにした。彼はしばらく黙ったまま双眼鏡を覗いていたが、やがて顔が強張り、ゆっくりと僕に双眼鏡を渡した。
「お前も……見てみろよ」と、彼の声は震えていた。僕も恐る恐る双眼鏡を覗くと、その灯りの下に何かが見えた。
それは、人影だった。薄暗い光の中で、何かが水面に立っているように見えた。光の中の黒いシルエットが、まるで波の上を漂うようにゆらゆらと揺れている。風もないはずなのに、その影だけが異常に動いていた。
「……人だよな?」僕が確認するように訊くと、麻美が青ざめた顔で「やめて、怖いから言わないで」と呟いた。
普通、人があんな場所にいるはずがない。船も見えないし、立てるような場所でもない。だが、その影は確かに人の形をしていて、まるで僕たちを見つめ返しているように感じた。
その瞬間、影がふっと灯りの中に消えた。まるで海に溶け込むように、波の中へ消えていったのだ。
僕たちは恐怖に駆られ、その場を離れようと慌てて荷物をまとめ始めた。すると、再び海の向こうで同じ灯りがちらちらと揺れ始めた。今度は明らかに、こちらに近づいてくるようだった。
「やばい、逃げよう!」涼介が叫び、僕たちは無我夢中で車へ駆け込んだ。エンジンをかけて急いでその場所を後にしたが、車が走り出す直前、僕は最後に一度だけバックミラーを見た。
そこには、暗闇の中でぼんやりと揺れる灯りと、再び浮かび上がるあの黒い影が映っていた。その影は、まるで僕たちを追いかけるように海の上を進んでいた。
それ以来、僕たちはあの場所には近づいていない。
あの夜、双眼鏡で見たその異様な光景が、今でも僕の脳裏から離れない。
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