小学五年生の夏休み前、友達のAとBと俺の三人で、放課後に怖い話をするのが流行り始めた。ある日、Aが「百物語って知ってる?」と言い出した。怪談を百話集めて語り終えると、本当に幽霊が現れるっていう有名な怪談だ。もちろん、俺たちも最初はただの遊びだと思っていた。俺たちはその話に興味を持ち、毎日数話ずつ、色んな場所で怖い話をしながら百物語を完成させようと決めた。
場所は、学校の教室、近所の公園、コンビニの前など、その時に集まれる場所で話をした。最初はただの楽しい遊びだったけれど、話を重ねるごとに、俺たちの周りで奇妙なことが起こり始めた。
最初は、何もない空き教室で、突然バタンと大きな音がして、俺たちは一斉に振り返った。けれど、誰もいないし、音の原因もわからない。ただの風かと気にせずにいたが、次第に他にも不可解な現象が起こり始めた。
ある日、三人で近くのコンビニにいたとき、ふと店のガラス越しに黒い影が見えた。視線を向けると、遠くで髪の長い女がじっとこちらを見つめていた。顔は暗くて見えなかったが、妙に視線が重く感じた。俺たちはお互いに「今、見た?」と確認し合ったが、すぐにその影は消えた。
それでも百物語は続けた。やめた方がいいんじゃないかという気持ちが少しずつ強くなったが、ここまで来たら後には引けない。九十話を超えたあたりから、家の中でも物が突然落ちたり、奇妙な音が聞こえたり、気味の悪い夢を見るようになった。俺たちは少し怖くなり、ついに先生に相談することにした。
放課後の教室で、担任のY先生にこれまでの経緯を話すと、先生は鼻で笑った。「お前たち、そんなことでビビってるのか? 百物語なんてただの作り話だ。よし、今ここで終わらせてしまおうじゃないか」と言って、百話目を話すように促した。俺たちはしぶしぶ最後の話を始めた。
百話目は、ある村で「語ってはならない話」をした者が次々と奇妙な死を遂げたという、ただの怖い話だった。語り終えた瞬間、廊下からコツ…コツ…とゆっくりした足音が響き渡った。静まり返った教室にその音だけが響き、俺たちは全身に鳥肌が立った。
そして、廊下の奥からしゃがれた声が聞こえた。「出てこい…出てこい…」
その声は、男とも女ともつかない、低く湿った響きで、まるで俺たちを誘うようだった。先生も最初は驚いていたが、すぐに「こんなの誰かのいたずらだろ」と言い、ドアを開けて廊下に出て行った。俺たちは怖くて動けなかったが、先生が確かめに行くから安心だと思っていた。
しかし次の瞬間、廊下から「ギャアッ!」という叫び声と、何かが倒れる音がした。俺たちは凍りつき、恐る恐る廊下に出てみた。そこには、倒れた先生が苦しそうにうめいていた。そして、そのそばには何かが立っていた。
それは一瞬だった。全身が黒く染まった、異様に長い髪を持つ女の姿。顔は真っ白で、目はぎょろりと見開かれ、口が不自然に裂けたように広がっていた。細く長い手が血のような赤い液体で濡れ、その手で先生をつかんでいた。
女の目が俺たちを見た瞬間、全身がすくみあがった。異様に長い舌がその裂けた口から垂れ、笑っているように見えたが、その笑みは狂気そのものだった。次の瞬間には何もいなくなり、ただ倒れた先生だけが残されていた。
俺たちは震えながら先生に駆け寄り、すぐにほかの先生を呼んだ。先生は救急車で運ばれていった。
それ以来、先生が学校に来ることはなかった。
後で聞いた噂では、精神が完全におかしくなってしまったらしい。
百物語は遊びではなかった。あの百話目を語った瞬間に、本当に何かを呼び出してしまったのだろう。以来、俺たちは決して怪談をすることも、あの話を振り返ることもなくなった。
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