ある日、仕事帰りにふと立ち寄ったアンティークショップで、私は一枚の絵画に目を奪われた。古びた油絵で、木製の重厚な額縁に収まっていた。絵の内容は、薄暗い森の中に立つ古びた家。家の窓からは、ぼんやりとした灯りが漏れていて、どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。
特に芸術に詳しいわけではないが、その絵には不思議な魅力があり、なぜか惹かれてしまった。店主に値段を聞くと、驚くほど安かった。店主は「この絵には少し曰くがある」と言ったが、特に気にも留めず、インテリアとして面白そうだと思い、購入を決めた。
家に戻り、リビングの壁にその絵を掛けた。最初は特に何も感じなかったが、日が経つにつれて、絵の中の風景が少しずつ変わっているような気がしてきた。最初はただの気のせいだと思っていたが、確かに違和感があった。
ある日、ふと気づくと、絵の中に人影が描かれていたのだ。最初に見たときには確かにいなかったはずの小さな人影が、家の窓の中に立っている。それも、こちらをじっと見つめているように感じた。気味が悪くなったが、絵が古いせいで元々描かれていたものが浮き上がってきたのだろうと、自分に言い聞かせた。
だが、それからというもの、奇妙な現象が続いた。
夜中、寝室で寝ていると、リビングから微かに足音が聞こえてくる。廊下をゆっくり歩くような音で、最初は隣の部屋の音かと思っていたが、確かに自分の家の中から響いていた。恐る恐るリビングに行くと、音はピタリと止まり、ただ絵が壁に掛かっているだけだった。
さらに、翌朝絵を見ると、また風景が変わっていた。人影が少し大きくなり、窓の外に出てきたかのように見えた。その姿はぼんやりとしているが、確かに人間の形をしている。髪が長く、全身を黒い服で覆った女性のように見えた。
それからというもの、家の中で不気味なことが増えていった。深夜に廊下を歩く音、キッチンで誰かが物を動かしているような音、そして時折、耳元で誰かが囁く声が聞こえるようになった。その声は低く、何を言っているのかは分からないが、明らかに自分に向けられているようだった。
ある晩、寝ているときにふと目が覚めた。何かの気配を感じてベッドから起き上がると、リビングから微かに光が漏れていることに気づいた。恐る恐る近づいてみると、あの絵の中からかすかに光が漏れていた。まるで絵の中の家の灯りが実際に点灯しているかのようだった。
そして、絵の中の人影は完全に家の外に出て、森の中を歩いているように見えた。その姿はさらに鮮明になり、細長い手がこちらに向かって伸びているように感じた。恐怖で全身が凍りつき、その夜は眠ることができなかった。
翌朝、意を決して絵を取り外し、捨てることに決めた。だが、ゴミ置き場に出しても、なぜか家に戻ってきてしまう。何度捨てても、翌朝には絵が元の場所に戻っているのだ。まるで絵が自分に取り憑いているかのように、どこにも行かない。
最後には、近くの神社に持ち込み、お祓いをお願いしたが、神主から「この絵は持ち込まないでほしい」と断られてしまった。結局、絵は家に戻され、今でもリビングに掛かっている。
それからは、奇妙な現象はさらに悪化した。夜中、絵の中の人影が完全に家の外に出てきたように感じる瞬間が増え、夢の中にまでその影が現れるようになった。夢の中で、その女性が暗い森の中でこちらをじっと見つめ、にやりと笑う。そして、手招きをするように手を伸ばしてくるのだ。
今では、家にいるのが恐ろしく、夜中に目が覚めるのが怖い。絵を処分しようとしてもできない。まるで絵そのものが生きていて、自分を呪っているかのようだ。
あのアンティークショップで、なぜ店主が「曰くがある」と言ったのか、今ならよくわかる。だが、もう手遅れだ。あの絵は、確実に何かを宿している。そして、その「何か」は少しずつこちらに近づいてきている。
夜中にふと目を覚ますたび、部屋の隅にあの影が立っているような気がしてならない。絵の中の存在が、ついにこちらの世界に足を踏み入れたのかもしれない。もう逃れる術はない。
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