ある日、私は祖母の家に帰省した。田舎の古い家で、子供の頃から親しんできた場所だが、祖母が亡くなり、しばらく空き家になっていた。その家を整理するため、久しぶりに訪れたのだ。古びた和室や納戸を片付ける中で、ある押し入れを開けたとき、私は一体の日本人形を見つけた。
その人形は、小さな女の子の姿をしていた。黒い髪は艶やかで長く、真っ白な顔に赤い唇が印象的だった。着物は古びていたが、どこか品があり、その目はガラス玉のように澄んでいた。幼い頃、遊びに行ったときには気づかなかった人形だったが、なぜか懐かしさとともに、強く心を惹かれた。
家を片付け終えた後、その人形を処分することも考えたが、どうしても手放せない気がして、持ち帰ることにした。自宅に戻った私は、リビングの一角にその人形を飾り、日常生活を送っていた。
最初の数日は特に何も感じなかった。しかし、しばらくしてから、夜中に妙な感覚を覚えるようになった。寝室で寝ていると、ふと視線を感じることが増えたのだ。暗い部屋の中で、誰かがじっとこちらを見つめているような気配がする。気になって起き上がり、リビングに行くと、人形がこちらを見つめているように感じた。
その人形の目は、どこか悲しげでありながら、どこまでも冷たかった。視線を合わせると、まるで人形が生きているかのような錯覚に陥った。だが、その時はまだ気のせいだと思い込むことができた。
しかし、それから数日後、異変はさらに強くなった。
夜中、ふと目を覚ますと、廊下の方から足音が聞こえてきた。スリッパを引きずるような音で、確実に自分の家の中から響いている。怖くなって布団をかぶり、息を潜めていたが、音はどんどん近づいてくる。ついには寝室のドアの前でピタリと止まり、静寂が広がった。
恐る恐るドアを開けてみたが、そこには誰もいなかった。ただ、リビングに行くと、人形が少しだけ位置を変えていた。人形は確かに棚の中央に置いていたはずなのに、なぜか端に寄っていたのだ。誰かが動かしたのか? しかし、自分以外にこの家には誰もいない。
それからというもの、家の中で奇妙な出来事が続いた。朝起きると、人形の髪が少し伸びているように感じたり、着物が乱れていることが増えた。ある日、仕事から帰宅すると、人形がまるで倒れかけたように斜めに傾いていた。だが、明らかに不安定な状態なのに、倒れることなくその姿勢を保っているのだ。
恐怖がピークに達したのは、ある夜のことだった。寝ていると、耳元で誰かが低い声で囁くような音が聞こえた。声は女性のもので、何を言っているのかはわからないが、確実に何かを訴えている感じがした。目を開けると、部屋の隅に影のようなものが見えた。それは、まるであの人形が立っているように見えた。
パニックになり、ライトを点けて確認したが、部屋には何もいない。だが、リビングに行くと、人形の目が微かに動いたように見えた。その目は、まるで笑っているかのように見えたのだ。
翌日、私はすぐに人形を処分することにした。近くの寺に持ち込み、供養をお願いした。住職は人形を見るなり、「この人形には強い思念が宿っている」と言った。どうやらこの人形は、過去に誰かが大切にしていたものだが、その人が亡くなった後も強い執着が残り、次第に怨念へと変わってしまったという。
供養を終えた後、私は再び人形を手にすることはないと誓った。それからは、家の中での異変はぴたりと止まり、平穏な日常が戻った。
だが、時折夢の中で、あの人形が現れることがある。夢の中で私は、あの冷たい目でじっと見つめられ、再びその目が微かに笑っているのを感じるのだ。
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