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オフィスに彷徨う『残された影』 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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深夜、オフィスには私一人だけだった。月末の資料整理が思いのほか手間取り、気がつけば他の社員はみんな帰宅してしまい、フロアに残されていたのは私一人になっていた。静まり返ったオフィスは、昼間の喧騒とは打って変わって不気味なほど静かで、エアコンの低い音だけが響いている。

いつもならこんな時間まで残ることはないが、どうしても終わらせなければならない仕事があったため、仕方なく残業を続けていた。書類の山を片付け、少し肩を回してリフレッシュしようと窓の外に目をやった。

そこで、妙な違和感を感じた。外は暗く、ビル群がぼんやりと光っているだけだが、窓ガラスに映る自分の影が、いつもと違って不自然に長く伸びていることに気づいたのだ。デスクライトの角度が原因だろうか? そう思って位置を調整してみたが、影はそのまま、いや、むしろさらに長く、薄気味悪く伸びていた。

「なんだこれ…」

不安を覚えながら影を見つめていると、その影が微かに動いたように感じた。自分は動いていないのに、影だけがゆっくりと揺らめき、まるで意志を持っているかのように動き出したのだ。最初は目の錯覚かと思ったが、影は確かにゆっくりとデスクから離れ、オフィスの中を彷徨い始めた。

心臓がドクンと大きく鼓動し、背筋に冷たいものが走った。影はゆっくりと、フロアの中央へ向かって進んでいく。まるで、オフィス内を探索しているかのような動きだった。私はその場で固まり、影の動きを目で追っていたが、次第に影がどんどん薄れていくのが見えた。

「おかしい…これは夢か?」

そう自分に言い聞かせ、目をこすったが、状況は変わらない。影はどんどん薄れながらも、オフィス内を動き回り、やがて奥の会議室の方へと消えていった。

不安が胸を支配し、動悸が激しくなってきた。恐る恐るデスクを離れ、会議室の方へ近づいてみる。会議室のドアは半開きで、中は真っ暗だった。私はライトを手に取り、そっと会議室のドアを押し開けた。

中はいつも通りのレイアウトで、特に異常はないように見えたが、床を照らすと、そこにはまだかすかに残った影がうごめいていた。影は静かに揺らめきながら、まるで何かを探しているかのように動いている。私は恐怖で足がすくんだが、何とか冷静さを保とうと必死だった。

その時、影が突然止まり、私の方を向いたように感じた。何も見えないはずなのに、視線を感じる。まるで、その影がこちらをじっと見つめているかのようだった。

「何なんだ…これ…」

その言葉が喉から漏れた瞬間、影がゆっくりと近づいてきた。床に広がった黒いシルエットが、じわじわと自分に迫ってくる感覚に、全身が凍りついた。逃げ出したいのに、足が動かない。

影はすぐ目の前まで近づくと、再び形を変え、今度はまるで人の形を成し始めた。頭部、肩、そして腕がゆっくりと浮かび上がり、まるで黒い霧が凝縮していくように、徐々に実体を持つように見えてくる。

その時、オフィスのエアコンが突然止まり、異様な静けさが訪れた。影は完全に人の形を成し、じっとこちらを見つめているように思えた。恐怖で目を逸らそうとしたが、どうしても視線を外すことができない。目を閉じた瞬間、影が消え、自分はその場に崩れ落ちた。

「これは幻覚だ、疲れが見せた悪夢だ…」

そう必死に自分に言い聞かせ、震える体を何とか立ち上がらせた。もうこのオフィスにはいられないと感じ、急いでデスクに戻り、荷物をまとめた。そして、外に出るためにエレベーターへと向かおうとした。

だが、オフィスの出口に向かう途中、窓の外に目をやると、今度は全く見覚えのない風景が広がっていた。高層ビルの夜景ではなく、どこか寂れた街並みが見え、まるで昭和初期のような古びた町がそこに広がっていた。

「ここは一体…どこなんだ…」

混乱する頭を抱えながらも、私は窓に近づいてその風景を凝視した。すると、再び視線を感じ、ガラスに映る自分の姿を確認すると、そこに自分が映っていなかった。ついさっきまで存在していたはずの自分が、まるで消えたかのように、ガラスには何も映っていなかった。

限界を感じた私は、オフィスから一刻も早く逃げ出そうと出口に向かった。そして、ドアを開けた瞬間、全身に冷たい風が吹き込んできた。廊下に出ると、いつものオフィスビルの景色が広がり、すぐそばのエレベーターも普通に動いていた。

恐る恐る振り返ると、オフィス内は元通りの静けさを取り戻していた。窓の外もいつも通りのビル街が広がり、異常な光景はすべて消え去っていた。

「今のは一体…」

翌朝、普段通りにオフィスへ出勤したが、昨夜の出来事が夢だったのか現実だったのか、今でも判断がつかない。ただ、あの異常な影が再び現れるのではないかという恐怖が、心の奥に残り続けている。あの日以来、深夜のオフィスには決して一人で残らないようにしている。あの影が、本当に私自身の影だったのかどうか、今でも答えは見つかっていない。

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