怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

北海道の広大な道で追いつけない人影 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編

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その日、私は仕事の出張で北海道を訪れていた。出張先での仕事が早く終わり、せっかくなら少しドライブでもしようと思い、レンタカーを借りて広大な自然の中を走り始めた。道東エリアの観光スポットをいくつか回り、帰り道は広がる平原を貫く一本道を選んだ。見渡す限りの大地に夕陽が沈み、オレンジ色の空が徐々に暗闇へと変わっていくのを眺めながら、私は車を走らせていた。

北海道特有の一直線に続く道は、車もほとんど通らず、周囲には人家もない。左手には森林が続き、右手には果てしなく広がる平原が広がる。自然の美しさに心が癒され、しばしハンドルを握る手を緩めた。気分は穏やかだったが、同時にどこか孤独感も感じていた。

しばらく走るうち、視界の先に何かが見えた。遠くの道路上に、人影がぽつんと浮かび上がっている。こんな場所に人が歩いているのは不自然だと思い、最初は看板か何かの見間違いだろうと考えたが、次第にその人影が近づいてくるのが分かった。

人影は道路の真ん中に立っているわけではなく、道路の端を歩いているように見えた。暗くなりかけた空の下、その姿はシルエットだけで、性別や年齢すら判別できなかった。私は速度を落とし、その人物を追い越すつもりで車を進めた。

ところが、近づいても距離が縮まらない。車は間違いなく進んでいるはずなのに、人影との距離が一定のまま保たれているのだ。不思議に思い、私は少しアクセルを踏み込んだ。速度を上げても、相変わらず人影は前方を同じペースで歩いている。

「なんだ…?」

私はその人影が気になり、速度をさらに上げた。しかし、どうしても追いつかない。明らかにこちらは車を走らせているのに、あの人影は悠然と歩き続け、私との距離は一向に縮まらない。

次第に不安が胸を支配し始めた。普通なら、車が歩行者に追いつかないなんてありえない。それどころか、その人影が異様に浮いて見え始めた。道路に足をつけて歩いているはずなのに、その影が地面からほんの少しだけ浮いているように感じたのだ。

「やばい、これは普通じゃない…」

私は反射的にアクセルをさらに踏み込み、時速100キロ近くまでスピードを上げた。しかし、それでも追いつけない。むしろ、あの人影が速度を合わせてこちらをからかっているかのように、常に一定の距離を保ち続けている。

その時、急に背筋が寒くなり、全身に鳥肌が立った。「これは人間じゃない…!」直感的にそう感じ、早くこの場を抜け出したい一心でアクセルを踏み続けた。

やがて道は緩やかなカーブに差し掛かり、私は恐怖を抑えながらハンドルを切った。その瞬間、視界から人影が消えた。カーブを曲がり切り、再びまっすぐな道に入ると、そこにはもう何も見えなかった。ホッとする間もなく、バックミラーを確認すると、後方の遠くに同じ人影が見えた。今度は、私を追いかけるようにこちらに向かってきている。

「どうして…追いかけてくるんだ…?」

私はアクセルを限界まで踏み込み、必死に逃げようとした。後方の人影は徐々に小さくなり、やがて見えなくなった。しかし、次の瞬間、道路の先に再びあの人影が現れた。まるで、追い越したと思った瞬間、瞬間移動して先回りしてきたかのようだ。

「こんなの、ありえない…!」

恐怖で頭が真っ白になりながら、私はひたすら車を走らせた。次第に道路の両脇の景色がぼやけて見え、意識が朦朧としてくる。それでも人影は前方に居続け、私を導くように歩いているようだった。

しばらくして、遠くに街の明かりが見えた。ようやく人のいる場所に辿り着けると思い、安堵した。すると、突然あの人影がふっと消えた。まるで最初から存在しなかったかのように、跡形もなく消え去ったのだ。

私は車を停め、しばらく呆然とした。冷や汗が止まらず、鼓動が激しく鳴り続けていた。何だったのか、説明がつかないが、あれが人間でないことは確信していた。広大な北海道の自然の中には、時折そんな「異質なもの」が現れるのだろう。理屈では説明できない不気味な存在が、そこには確かに潜んでいたのだ。

あの夜、私は一人であの道を走る恐怖を忘れることができない。人間の力ではどうにもならない「何か」が、この広大な自然の中に潜んでいる。それを感じたとき、私は二度とあの道を通りたくないと思った。北海道の大自然の中には、ただ美しいだけではない、何か得体の知れないものが存在しているのかもしれないと、今でも思い出すたびに震えてしまう。

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