怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

繰り返される子守唄と現れる赤ちゃん 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編

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大学の夏休みを利用して、私は祖父母の家を訪れた。祖父母の家は、古びた木造の一軒家で、築50年を超えるという。昔ながらの広い庭と縁側があり、周囲はのどかな田舎の風景が広がっている。私はこの家で幼い頃の夏休みを過ごした思い出があり、どこか懐かしい気持ちでいっぱいだった。

ある日、祖父母が出かけたため、私は一人で家を見て回っていた。古い家特有の匂いと、軋む廊下の音が、どこか心地よい。そんな中、ふと物置部屋に目が留まった。子供の頃には怖くて近寄れなかったその部屋だが、今では探検心がくすぐられる場所になっていた。

扉を開けると、埃が舞い上がり、薄暗い部屋に古い家具や段ボールが雑然と置かれていた。奥の方には、見慣れない大きな箱があり、何となく興味を惹かれて近づいてみた。箱を開けると、中には古びたレコードプレーヤーが入っていた。祖母が使っていたものだろうか。昔の音楽を聴いていたという話は聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだった。

プレーヤーにはレコードが一枚セットされたままになっており、ラベルには手書きで「子守唄」と書かれていた。レコードプレーヤーに手を伸ばし、好奇心からスイッチを入れてみた。すると、カタカタと音を立てながらレコードが回り始め、すぐに柔らかなメロディが流れ出した。

それはどこか懐かしく、優しい響きを持つ子守唄だった。古びた音質のせいか、少し歪んで聞こえるが、どこか心に染み入るような旋律だ。歌詞はなく、メロディだけが静かに繰り返されていた。私はその音に耳を傾けながら、ゆっくりと部屋を見渡していた。

その時だった。

かすかに、何かが動く気配を感じた。最初は風かと思ったが、部屋の窓は閉まっている。視線を感じてふと振り返ると、そこには小さな赤ちゃんが、ぽつんと座っていた。驚きと同時に、不思議と怖さは感じなかった。それどころか、どこか温かいものが心に広がってきた。

赤ちゃんは真っ白な服を着ており、黒い瞳がこちらをじっと見つめている。にっこりと微笑むその顔は、どこか懐かしく感じた。まるで、遠い昔に会ったことがあるかのような錯覚に陥る。

私は赤ちゃんに近づいてみたが、彼はその場から動く気配がない。ただ、レコードの子守唄が流れるたびに、体を軽く揺らして楽しんでいるようだった。メロディが繰り返される中で、赤ちゃんも微かに鼻歌のような声を出している。それはまるで、メロディに合わせて一緒に歌っているかのようだった。

「この赤ちゃん、一体どこから…?」

疑問は浮かんだが、不思議とその場の空気に引き込まれて、私もただ黙って子守唄に耳を傾けていた。部屋全体が穏やかな雰囲気に包まれ、時間の流れがゆっくりとしたものに感じられた。

しかし、ふと気づくと、赤ちゃんの姿は消えていた。まるで、最初からそこにはいなかったかのように、部屋には私一人だけが残されていた。

レコードはまだ回り続けており、子守唄が静かに部屋に響いている。私は不思議な気持ちでいっぱいになりながら、再び赤ちゃんが現れるのではないかと期待したが、現れることはなかった。

レコードを止めると、部屋は静寂に戻り、先ほどまでの温かさが少しずつ消えていった。あの赤ちゃんは、何かこの家に深い縁があった存在なのだろうか? 祖母が育てた子供か、それともさらに前の世代の記憶が宿っているのかもしれないと、ぼんやりと思った。

その後、私はそのレコードを持ち帰り、時折自宅で再生することがある。しかし、あの時のような奇妙な現象が再び起こることはない。ただ、あの子守唄を聞くたびに、どこか懐かしさと温かさを感じ、そしてほんの少しだけ、胸が締め付けられるような切なさがこみ上げてくる。

あの赤ちゃんは、今もこの家のどこかで、子守唄を聞きながら穏やかに眠っているのかもしれない。そんな風に思うと、奇妙ではあるが、怖さよりもむしろ心が落ち着く。レコードプレーヤーから流れる子守唄は、今でも私にとって特別な音楽になっている。

それは、ただの古い子守唄かもしれないが、何か大切なものを守り続けているような気がしてならない。

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