体験談：古いパソコンが教えてくれた、不思議な時間 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編
先日、何気なく立ち寄ったリサイクルショップで、僕はふと目を引かれるアイテムを見つけました。店の隅にひっそりと置かれていた、どこか懐かしい雰囲気を醸し出す古いパソコンです。見た目は1980年代後半から1990年代初頭のものでしょうか、黄ばんだプラスチックとブラウン管モニターがセットになっていました。価格は驚くほど安く、1,000円にも満たない値段でした。
「使えなくても、インテリアとしては悪くないな」
そう思い、僕は購入を決めました。家に帰り、試しに電源を入れてみることにしました。正直、起動しないだろうと思っていましたが、意外にも「ブーーン」という独特の音とともに、モニターに淡い光が映し出されました。そして、見たこともないロゴが表示された後、まるで古いテレビドラマのイントロのような、シンプルだけど温かみのあるGUIが現れたのです。
画面には、「CloverOS」という文字が浮かんでいました。僕はこのOSについて全く知らなかったし、インターネットで調べても、特にそれらしい情報は見つかりません。これはもしかすると、ある小さなメーカーが独自に開発した幻のOSなのかもしれない、と少しワクワクしながら使い始めました。
CloverOSのインターフェースは、とにかくレトロで可愛らしいものでした。ウィンドウのデザインは、手描きのような柔らかい線と、草花をモチーフにしたアイコンが特徴的でした。全体的に緑やベージュを基調とした色合いで、見ているだけでほっとするような、どこか牧歌的な雰囲気があります。
一通りいじってみると、「Garden」という名前のソフトウェアが目に入りました。アイコンは小さな木で、なんとも可愛らしいデザインです。興味をそそられ、早速そのソフトを起動してみました。
画面には、シンプルな庭園の風景が表示されました。青空、緑の芝生、そして小さな池が描かれていて、ほんのりと風が吹いているようなアニメーションが流れます。そこにメニューが表示され、「種を植える」「水をあげる」「日記を書く」といったオプションがあります。
「これは…なんだろう？」と戸惑いながらも、僕は試しに「種を植える」を選びました。すると、画面上に小さな花壇が現れ、そこに好きな花の種を選べるようになっています。何種類かの花の中から、一番気に入った「四つ葉のクローバー」を選びました。
選んだ種を植え、水をやると、ほんの少し芽が顔を出しました。さらに、翌日もソフトを起動して水をやると、少し成長しています。どうやら、この「Garden」というソフトは、時間の経過とともにデジタルの庭が成長していく仕組みのようです。
毎日少しずつ、僕はこの庭を手入れしていきました。花が咲いたり、池の周りに小さな生き物が現れたり、時には風が強く吹いて、落ち葉が舞い散るエフェクトが追加されたりと、まるで現実の庭を育てているかのようなリアリティがあります。しかし、驚くべきは、ある日この庭に突然、動物たちが訪れるようになったことです。
最初に現れたのは、一匹の小さなウサギでした。画面の端からひょこひょこと歩いてきて、花壇の近くに座り込んでいます。その動きがなんとも愛らしく、僕はその姿を眺めるだけで癒されました。次第に鳥やリスなど、他の動物たちも姿を見せるようになり、庭はますます賑やかになっていきました。
ある日、ふと思い立って「日記を書く」のオプションを選んでみることにしました。そこには、簡単なメモ機能があり、自分の感想や庭の様子を書き留めることができます。そして、僕が日記を書いてしばらくすると、その内容に反応するように庭の様子が変わるのです。
たとえば、「今日は少し疲れた」という一言を書き込むと、庭に夕焼けが差し込んで、柔らかな風が吹き始める。逆に、「今日は良いことがあった！」と書くと、明るい太陽と共に鳥がさえずり、庭全体が活気づくようなエフェクトが表示されました。
この体験は、まるで自分と庭が感情を共有しているようで、不思議な感覚でした。忙しい日々の中で、少しの時間でもこのソフトを起動して庭の様子を確認することが、僕の日課となり、心の安らぎとなっていきました。
最終的に、このパソコンのことを詳しく調べようとする気持ちよりも、このまま何も知らずに楽しみ続けたいという気持ちが強くなりました。リサイクルショップで偶然見つけたこのパソコンと、その中にあるCloverOS。そして、どこか優しさを感じるこの「Garden」というソフト。この不思議な体験は、現実の喧騒から少しだけ離れ、心をリセットしてくれるかけがえのない時間となっています。
結局、その後も僕は「Garden」を起動し続けていますが、庭は日に日に美しくなり、新たな発見が絶えません。もしかしたら、この庭は僕の心を映し出しているのかもしれませんね。
日々の忙しさを忘れたい方、ちょっとした癒しを求めている方には、この不思議なパソコンとの出会いは、きっと素敵な体験になるでしょう。リサイクルショップで偶然見つけたものが、こんなにも心に響くとは思いませんでしたが、時には何気ない選択が、思いもよらない癒しをもたらしてくれるものです。
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