佐藤由美子は、都心から少し離れた静かな住宅街で夫と二人暮らしをしている専業主婦でした。日々の家事や近所付き合いに忙しい毎日を送っていましたが、家からほど近い商店街への買い物は彼女にとっての小さな楽しみでした。商店街には馴染みの八百屋や魚屋が並び、由美子はいつものようにその道を通って買い物に出かけました。
その日も、由美子は昼過ぎに家を出て、いつも通り商店街へ向かいました。八百屋で新鮮な野菜を買い込み、次は肉屋で今晩のおかずを考えながら歩いていました。ふと、いつもは通らない小道が目に留まりました。普段はまっすぐ商店街を歩くだけでしたが、その日は何となく気が向いて、その小道を入ってみることにしました。
「こんな道、あったかしら?」
不思議に思いながらも、小道を歩き続けました。しばらく進むと、由美子は見たこともない場所に出てしまいました。商店街の喧騒から離れ、周囲はひっそりと静まり返っています。そこには古びた建物が並び、どこか異国情緒を感じさせる雰囲気が漂っていました。
「こんな場所、この街にあったかしら…?」
由美子は急に不安になり、元の道に戻ろうとしましたが、来た道がどれだったのかがわからなくなっていました。慌てて道を戻ろうとしますが、歩けば歩くほど、周囲はますます見知らぬ風景に変わっていきました。心臓がドキドキと鳴り始め、息苦しさを感じるほどの不安が押し寄せてきました。
「どうしよう…」
由美子はとにかく、誰かに助けを求めるしかないと考えました。通りすがりの人々に声をかけ、いつもの商店街の場所を尋ねてみました。しかし、誰もが首をかしげるばかりで、「そんな商店街は知らない」と言います。聞いたこともない地名を口にする人々の言葉に、由美子の不安はますます募りました。
「一体、私はどこに来てしまったの?」
時間が経つにつれ、空が薄暗くなり始めました。焦る気持ちを抑えつつ、由美子は一人の警察官のような制服を着た男性を見かけました。見慣れた警察官の制服とはどこか違い、やや古風なデザインでしたが、由美子はすぐに彼に声をかけました。
「すみません、ちょっと道に迷ってしまって…この辺りの商店街に戻りたいのですが、どこに行けばいいか教えていただけますか?」
その警察官のような男性は、驚いた表情で由美子を見つめました。
「あなた、あの商店街から来たんですか?」
「ええ、そうなんです。どうやら迷ってしまったみたいで…」
その言葉を聞くと、彼は急に慌てた様子になり、「すぐに戻らなければなりません。こちらへ」と促しました。彼は親切に道を案内し始めましたが、その態度にはどこか緊迫感がありました。
「ここをまっすぐ進んで、次の角を左に曲がります。急いでくださいね、ここに長く留まるのはよくありません。」
と言って親切に案内をしてくれました。少し歩くと、突然、見覚えのある景色が目の前に広がりました。そこは、いつもの商店街でした。ようやく戻ってきたことに安堵した由美子は、振り返って警察官のような男性にお礼を言おうとしました。
「ありがとうございました、本当に助かりました…」
しかし、振り返った瞬間、彼の姿はすでになく、さらに驚いたことに、今来たはずの道も跡形もなく消えていました。まるで最初から存在しなかったかのように。
由美子は混乱しながらも、再び商店街を歩き始めました。八百屋や肉屋の明かりが暖かく灯り、いつもの喧騒が戻ってきています。しかし、あの奇妙な体験が何だったのか、由美子の頭の中でぐるぐると回り続けていました。
家に帰り、夫にその出来事を話しましたが、「そんなことあるわけないよ」と軽く笑われてしまいました。しかし、由美子にとってはあまりにも現実的な出来事でした。
その後も、由美子は何度か商店街へ出かけましたが、二度とあの小道を見つけることはありませんでした。そして、あの警察官のような男性が一体誰だったのか、どこから来たのか、そしてなぜあんなに慌てていたのかは、今でも謎のままです。
しかし、由美子は今でもその商店街を歩くたびに、あの奇妙な体験を思い出し、胸がざわつくことがあります。あの日、彼女が迷い込んだのは本当にこの世界の一部だったのか、それとも別の場所だったのか…。
一度迷い込んだら、二度と戻れなくなるかもしれない。そんな考えが、由美子の中で静かに広がっていきました。
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