入院することになったのは、持病の急な悪化が原因だった。診断名は慢性腎不全。症状が悪化し、突然の高熱に見舞われたため、緊急入院が必要だと言われた。病院のベッドに横たわり、点滴を受けることになったとき、少しだけ安心した。だが、その夜、私はこれまで経験したことのない恐怖を味わうことになった。
入院先は、都内の比較的新しい総合病院。病室は個室で、窓からは隣のビルの明かりが見える。消灯時間を過ぎると、病院内は静寂に包まれ、廊下からかすかに看護師たちの足音が響いてくるだけだった。
その夜、私は高熱のせいか、なかなか眠りに落ちることができなかった。うつらうつらとした状態で、時折目を開けては窓の外をぼんやりと見つめたりしていた。そうしているうちに、ふと病室のドアが軋む音が聞こえた。誰かが入ってきたのかと思い、そちらに目をやるが、ドアは閉まったままだった。
不思議に思いながらも、再び目を閉じた。だが、数分もしないうちに今度は部屋の隅から「カサカサ」という微かな音が聞こえてきた。まるで紙が擦れるような音だ。気のせいだろうか。私は起き上がり、音の出所を確認しようとしたが、特に異常は見当たらなかった。
その音が次第に大きくなり、はっきりと耳に届くようになった。部屋の中には私以外に誰もいないはずだが、まるで誰かがこちらをじっと見ているような気配を感じた。恐怖心が募り、身体中の毛が逆立つような感覚が襲ってきた。
私は枕元のナースコールに手を伸ばし、看護師を呼ぼうとした。だが、指がナースコールに触れた瞬間、その「カサカサ」という音が突然止んだ。まるで私が何か行動を起こすのを待っていたかのように。それでも私は看護師を呼んだ。ほどなくして看護師がやってきたが、私が感じた異変を説明すると、彼女は少し困惑した様子で「大丈夫ですよ。何もありません。」と言って、再び部屋を後にした。
看護師が去った後も、恐怖感は消えなかった。音は止んでいたが、何かがまだ部屋の中にいるような気がしてならなかった。私は、疲れた体を再びベッドに横たえ、布団を頭まで被った。しかし、目を閉じると再び音が始まった。今度は耳元で囁くような声まで聞こえてくる。何かが私の耳元で呟いているような、不明瞭な言葉だった。恐怖が頂点に達し、私は目を開けた。
すると、目の前に人影が立っていた。薄暗い病室の中で、シルエットだけがぼんやりと浮かび上がっていた。顔ははっきりとは見えないが、確かにそこに「誰か」がいたのだ。全身が凍りつくような感覚に襲われ、声も出せないままその影を凝視していた。だが、次の瞬間にはその影は消えていた。まるで幻を見たかのように。
恐怖に打ちのめされた私は、その夜、まったく眠ることができなかった。朝になり、窓から差し込む日光を見たとき、ようやく「無事に夜を越えられた」と安堵した。看護師が再び様子を見に来たとき、私は昨夜の出来事を伝えるべきか迷ったが、結局何も言えなかった。言っても信じてもらえないだろうと思ったからだ。
その後、私は数日間入院を続けたが、あの夜のような経験は二度となかった。しかし、あの体験は私の記憶に深く刻まれ、今でも鮮明に思い出されることがある。
退院後、友人にこの話をすると、彼らは皆「病室ではよくそんなことが起きる」と言った。特に深夜、誰もいないはずの病室で人の気配を感じたり、不可解な音を聞いたりすることがあるらしい。疲労やストレスから来る幻覚かもしれないが、私は今でもあの夜の出来事が現実だったと信じている。
病室という、命と死が交差する場所には、何か見えないものが存在しているのかもしれない。私があの夜に体験したのは、まさにその「何か」だったのだろう。現実の世界と異界の境界線が曖昧になる瞬間が、確かに存在するのだと感じた一夜だった。
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