古い掛け軸に秘められた呪い――家族を襲った不気味な出来事　怖い話　奇妙な話　不思議な話　短編集

私は、父の遺品整理をしていたときに、古びた掛け軸を見つけた。掛け軸は、埃にまみれた木箱の中に無造作に収められており、誰も気に留めていないようだった。表面は黄ばんでおり、墨で描かれた山水画が薄れている。父が生前、特に大事にしていたようには思えず、ただ長年放置されていたようだった。

私自身、美術品や骨董品に興味があるわけではなかったが、何か気になるものがあった。掛け軸には一種の重厚さがあり、その歴史を感じさせる存在感があった。これを機に、部屋に飾ってみようと思い、私はその掛け軸を家に持ち帰ることにした。

その夜、掛け軸をリビングに掛け、眺めながらコーヒーを飲んでいた。夕食後、家族と何気なくその掛け軸について話していたところ、突然妻が顔を曇らせた。「なんだか気味が悪い」と、彼女は不安そうに言った。子供たちも、いつもは元気に遊ぶリビングで、どこか居心地が悪そうにしていた。

私はその言葉に少し戸惑ったが、掛け軸を外すことは考えなかった。その後、しばらくしてから奇妙なことが起こり始めた。深夜、家中が不気味な静けさに包まれた頃、どこからか「カリカリ」という音が聞こえてくるようになった。最初はネズミか何かが壁の中にいるのだろうと思ったが、音の出所を探るうちに、リビングから聞こえてくることに気づいた。

リビングに入ると、音はピタリと止んだ。掛け軸は静かに壁に掛けられており、特に異常は見当たらない。私はそのまま音のことを忘れようとし、ベッドに戻ったが、再び「カリカリ」という音が始まった。それはまるで、掛け軸の中から何かが這い出てこようとしているかのようだった。

数日後、妻が突然倒れた。特にこれといった病気も持っていなかった彼女が、原因不明の高熱を出し、病院に運ばれた。医師たちは風邪やインフルエンザなどの感染症を疑ったが、どれも該当しなかった。彼女は数日間、高熱に苦しみながら、うなされるように「何かが見える」と繰り返し言っていた。私は病室で彼女の手を握りながら、掛け軸との因果関係を考えざるを得なかった。

妻が倒れた翌日、家に残された子供たちも、夜になると突然泣き出すようになった。彼らは「怖い夢を見た」と言い、その内容を詳しく話そうとはしなかったが、何かが彼らを不安にさせているのは明らかだった。

その夜、私は決心して掛け軸を取り外し、元の木箱に戻すことにした。掛け軸を巻き始めた瞬間、背筋が凍るような寒気が全身を駆け抜けた。手が震え、冷や汗が噴き出すのを感じた。掛け軸を箱に収めて蓋を閉めると、家の中の雰囲気が一瞬で変わったように感じた。静けさが戻り、音もなくなった。

しかし、掛け軸を片付けたからといって全てが解決したわけではなかった。妻はその後も数週間、高熱と幻覚に苦しみ続けた。ようやく回復したとき、彼女は「もうあの家には戻りたくない」と言った。彼女が見たものを詳しく聞くことはできなかったが、その言葉には強い恐怖が込められていた。

結局、私たちはその家を離れることを決意し、新しい家に引っ越すことになった。掛け軸は実家に戻し、その後誰も触れることはなかった。あの掛け軸が何であったのか、どんな歴史を背負っていたのかは、今でも謎のままだ。しかし、あれほどまでに不気味で、家族に恐怖をもたらしたものが、ただの古びた美術品であるはずがないと私は思っている。

新しい家に移り住んでからは、奇妙な出来事は起こらなくなった。妻も子供たちも、平穏な日常を取り戻した。だが、あの掛け軸が再び誰かの手に渡り、同じような恐怖を引き起こさないかと考えると、今でも冷や汗が流れる。何かに憑りつかれたようなあの体験は、決して忘れることはできないだろう。

掛け軸には、ただの絵以上の何かが込められていることがある。それが人々にどのような影響を及ぼすのか、誰にも予測できない。私があの時感じた恐怖は、単なる思い過ごしではないと信じている。掛け軸に秘められた何かが、私たち家族を恐怖の底に突き落としたのだ。

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