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消えた掛け軸――見てはならない禁断の絵 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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私は、祖父が残した古い家を相続した。家は田舎の山間にあり、周りには数軒の家しかない。子供の頃、毎年のように訪れていたこの家には懐かしさを感じる反面、どこか寂しさが漂っていた。祖父が亡くなった後、しばらく放置されていたこの家を、私は週末を利用して少しずつ整理していた。

ある日、屋根裏部屋を整理していると、埃まみれの箱を見つけた。箱の中には、古びた掛け軸が一つ入っていた。絵には、荒涼とした山道を歩く一人の武士が描かれていた。その武士は、顔を隠すように深く兜をかぶり、全身を鎧に包んでいた。どこか不気味な雰囲気が漂うその絵には、かすかに血のような赤い染みが点在していたが、私はその異様さに惹かれるようにして、その掛け軸を持ち帰ることにした。

家に戻ると、私はその掛け軸を寝室に掛けた。特に深い意味はなく、単に他の部屋には飾る場所がなかったからだ。だが、その夜から、奇妙な夢を見るようになった。

夢の中で、私は絵の中の山道を歩いていた。周りには何もなく、ただ荒れ果てた道が続いているだけだった。私は一人でその道を進んでいくが、やがて背後から足音が聞こえてきた。振り返ると、掛け軸の中の武士がゆっくりと近づいてくるのが見えた。その顔は、鎧の隙間から覗く目だけが不気味に光っていた。

目が覚めたとき、冷や汗で全身が濡れていた。奇妙な夢だったが、それ以上の不安は感じなかった。しかし、翌日も同じ夢を見た。夢の中の武士は、私に近づくたびに表情を少しずつ変えていき、その目には次第に怒りの色が増していった。

三日目の夜、私はまた同じ夢を見ることになると思い、寝るのが恐ろしくなった。掛け軸を見ていると、昼間とは違い、何か重苦しいものが漂っているように感じられた。それでも何とか眠りにつこうとしたが、結局その夜も夢に引きずり込まれた。

夢の中で、武士はさらに私に近づき、その冷たい目が私を睨みつけていた。私はその場から逃げ出そうとしたが、足が動かず、ただその視線に怯えるしかなかった。武士が刀を抜いた瞬間、私は目を覚ました。心臓が激しく脈打ち、息が荒くなっていた。

その時、何かが違うことに気づいた。寝室の壁に掛けていたはずの掛け軸が、消えていたのだ。私は恐怖に駆られ、家中を探し回ったが、掛け軸はどこにも見当たらなかった。まるで、最初から存在しなかったかのように。

その後、私はあの家に戻ることをためらうようになった。何かがあの掛け軸を取り戻しに来たのだろうか。それとも、私が見てはならないものを見てしまったのだろうか。あの武士が私に何を訴えかけたかったのかは、今でも分からない。

しかし、ひとつだけ確かなのは、あの掛け軸は二度と見つかってはならないものであり、もし誰かがそれを見つけることがあれば、同じ恐怖に襲われるかもしれないということだ。今でも、夜になると、あの冷たい視線を思い出し、背筋が凍るような感覚が蘇ってくる。

掛け軸が消えてから数年が経ったが、私の中には今でもあの夢の記憶が鮮明に残っている。もしも再びあの家を訪れることがあれば、あの武士が再び現れるのではないかという恐怖が、私を強く縛り付けている。



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