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溶けていく街――夕暮れに消えゆく現実の風景 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その日は、仕事が少し早く終わり、夕暮れの街を散歩しながら家に帰ることにした。日常の喧騒から解放され、穏やかな気持ちでいつもの道を歩いていた。オレンジ色に染まった空が街を包み込み、やわらかい光が建物や街路樹を照らしていた。

私はこの時間帯の街が好きだった。人通りが少なく、穏やかな雰囲気が漂っていて、心が落ち着く。家までの道はよく知っているつもりだったし、今まで特に気に留めることもなく歩いていた。

しかし、その日、街の様子がいつもと違っていることに気づいたのは、歩き始めてからしばらくしてのことだった。

まず、ふとした瞬間に感じた違和感。見慣れたはずの建物が、微かに違って見えたのだ。何が変わったのかはすぐには分からなかったが、どこかが確実におかしい。私は立ち止まり、周りを見渡した。すると、いつも目にしているコンビニが、いつの間にか姿を消していた。

「え…?あれは、どこに行ったんだ?」

私は頭を振り、再びその場所を確認したが、コンビニの代わりに空き地が広がっていた。まるで初めからそこに何もなかったかのように。驚きとともに不安が湧き上がり、心臓の鼓動が速くなった。

さらに歩を進めると、街並みが少しずつ歪んでいくのを感じた。建物の輪郭がぼやけ、色が薄れていく。まるで絵具が水に溶け出すように、ビルや商店が徐々に消え始め、形を失っていった。目の前の道路も次第にくねくねと曲がり、まるで自分がいる場所が現実ではなく、悪夢の中に迷い込んでしまったかのようだった。

私は焦りと恐怖を感じながらも、なんとか前に進もうとした。しかし、周りの風景はますます変わり続け、どこかに向かっているという感覚さえ失われていった。建物は次々と消えていき、道も次第に細く、ねじれたものに変わっていく。足元がぐにゃりと歪む感覚に、立っていることさえ難しくなってきた。

空もいつの間にか暗くなり、あれほど美しかった夕日も消え去っていた。街灯の明かりが頼りない光を放っていたが、その光すらも不安定で、瞬く間に消えかけているように見えた。私は必死に歩き続けたが、どこへ行けばよいのか分からない。家に帰る道は完全に消え去り、周囲にはただ漠然とした闇が広がっていた。

「ここは一体どこなんだ…?」

答えのない問いを胸に抱え、私は不安と恐怖に押し潰されそうになりながらも、必死に歩き続けた。しかし、道が完全に途絶えた瞬間、私は何もない空間に立っていることに気づいた。周りには、もはや街の形跡すら残っていなかった。

足元が不安定になり、私は崩れ落ちそうになったが、奇妙なことに、その瞬間、すべてが静かになった。周りの闇がふっと晴れ、気がつくと、私はいつもの街角に立っていた。

辺りを見回すと、消えていたはずの建物が元通りにあり、道もまっすぐに続いていた。人々が行き交い、車も普通に走っている。まるで何もなかったかのように。

私は何が起こったのか理解できなかった。ただ、あの異常な体験が一瞬で消え去ったのだ。心臓の鼓動がまだ激しく、全身が汗ばんでいたが、私はゆっくりと深呼吸し、何とか気を落ち着けようとした。

その後、私は何事もなかったかのように家に帰ったが、あの体験が頭から離れなかった。あの街は何だったのか、あれは現実だったのか、それとも幻だったのか。私には今でも分からない。

ただ一つ確かなのは、あの日、私は確かに現実と異界の狭間に立っていたということだ。そして、あの溶けていく街の記憶は、今でも私の中に強く残り続けている。



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