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聞こえるはずのない囁き――静かな公園で名前を呼ぶ声 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その日は、特に何も予定のない穏やかな休日だった。気分転換に、近所の静かな公園まで散歩に出かけることにした。公園は小さく、人も少ないため、心を落ち着けるには最適の場所だった。私はよくこの公園に来て、静かな時間を過ごすのが好きだった。

昼下がりの公園は、薄い光が木々の間から差し込んでいて、心地よい風が吹いていた。私はいつものように、公園の奥にあるベンチに腰を下ろし、深呼吸をした。周りにはほとんど人影がなく、聞こえてくるのは風が木の葉を揺らす音と、遠くで子供たちが遊ぶ声だけだった。

しばらくの間、私はぼんやりと景色を眺めながら、ただその場に座っていた。しかし、次第に奇妙な感覚が湧き上がってきた。誰かの視線を感じるような、落ち着かない感覚だ。私は気にしないようにしていたが、その感覚はどんどん強くなっていった。

ふと、どこからか声が聞こえた気がした。小さな声で、何かを囁いているような音だった。耳を澄ませてみたが、その声はすぐに消えてしまい、再び公園は静けさに包まれた。

「気のせいか…」

私はそう自分に言い聞かせ、再び目を閉じてリラックスしようとした。しかし、またあの声が聞こえてきた。今度ははっきりと耳に届くほど近くからだ。女性の声のように聞こえたが、その内容ははっきりと分からなかった。私は背筋が寒くなるのを感じ、ゆっくりと周りを見回したが、周囲には誰もいなかった。

「誰もいない…のに」

不安が胸の中で広がり、心臓が早鐘を打つように鼓動を速めた。それでも私はその場を動けずにいた。何かがおかしい、でも何がおかしいのか分からない。そう思っていると、再び声が聞こえてきた。今度はもっと近く、まるで耳元で囁かれているかのようだった。

その瞬間、私の名前がはっきりと聞こえた。

「○○さん…」

声が私を呼んでいた。誰もいないはずの公園で、誰かが私の名前を呼んでいる。驚愕と恐怖が一気に押し寄せ、私は慌てて立ち上がった。後ろを振り返ったが、そこにはやはり誰もいなかった。周りの景色は変わらず、ただ静かな公園が広がっているだけだった。

「誰だ…?誰が…?」

声の主を探そうと辺りを見渡したが、公園は異様なほど静かだった。風が木々を揺らす音さえも遠のき、まるで公園全体が私を取り囲んでいるかのような錯覚に陥った。声は消えたが、今度は背後に何かが迫っているような気配を感じた。私は恐怖に駆られ、何も考えずに公園から逃げ出した。

全速力で公園の出口に向かって走り続け、ようやく外の通りに出た時、私は足を止めた。振り返ると、公園は以前と変わらぬ静寂を保っていた。まるで先ほどの出来事が幻だったかのように、何事もなかったかのように見えた。

家に帰る途中、私は何度も自分の名前が呼ばれた瞬間を思い出していた。あの声は誰のものだったのか、何のために私の名前を呼んだのか、考えても答えは出なかった。友人に話しても信じてもらえないだろうし、あの声が現実のものだったのかさえも疑わしくなっていた。

それ以来、私はあの公園に行くことを避けるようになった。昼間でも、あの場所には何か見えない存在が潜んでいるような気がしてならなかった。もし再びあの声が聞こえてきたら、今度は逃げる場所もないのではないかという恐怖が、私を縛りつけていた。

夜になると、時折あの囁き声が耳元で再び聞こえるのではないかと不安になることがある。何も聞こえないはずなのに、あの声がいつまでも頭の中に残っているような気がして、眠れない夜を過ごすことが増えた。あの日、公園で聞いた声は、決して忘れることができないものとなってしまった。



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