その日、私は仕事が終わっていつものように帰宅のために電車に乗り込んだ。疲れが溜まっていたせいか、電車に揺られているうちに、いつの間にか眠りに落ちてしまった。普段なら途中で目が覚めるはずが、その日は特に深く眠り込んでしまったらしい。
ふと目を覚ますと、電車はすでに停車していた。車内には誰もおらず、周りは異様に静まり返っていた。窓の外を見ると、見慣れない駅のホームが広がっていた。
「ここは…どこだ?」
車内のアナウンスもなく、ただ静寂が広がっているだけだった。私は焦りを感じながらも、とりあえず電車を降りることにした。ホームに足を踏み入れると、駅全体が不気味なほど静かで、どこか現実味が欠けているように感じた。
駅の看板を見上げたが、そこには見覚えのない文字が書かれていた。まるで別の言語のようで、何が書いてあるのか理解できなかった。薄暗い照明がホームを照らし、どこか冷たい空気が漂っていた。
「どうしてこんなところに…?」
周りを見回しても、誰もいない。ホームは広く、長い線路がどこまでも続いているように見えた。私は駅の出口を探そうと歩き始めたが、何かがこの場所に引き留めているような感覚がした。駅の構造も奇妙で、出口への道が見つからない。階段を登っても、通路を進んでも、いつの間にか元の場所に戻ってしまうのだ。
「迷路みたいだ…」
何度も同じ場所を通り過ぎるたびに、心臓が早鐘を打つようになった。足音がホームに響き渡り、その音だけが耳に残る。周囲の壁もどこか歪んで見え、目が回るような感覚に陥った。私は次第に方向感覚を失い、焦りと不安が胸に押し寄せてきた。
「一体、どうなっているんだ…」
突然、どこからかかすかな音が聞こえてきた。振り返ると、遠くのホームの端に、人影が見えた。人の気配に少しだけ安心し、私はその影に向かって歩き始めた。近づくにつれて、その人影は次第に明確になり、やがて年老いた女性の姿が浮かび上がってきた。
彼女は、古びた服を着て、何かを見つめるようにじっと立っていた。私は恐る恐る声をかけた。
「すみません、ここはどこですか?」
しかし、女性は何も答えなかった。無表情のまま、ただ私を見つめていた。その視線には何か異様なものを感じ、背筋が凍るような感覚に襲われた。私はその場を離れたい衝動に駆られたが、何かに引き寄せられるように女性に近づいていった。
その瞬間、女性がゆっくりと口を開いた。
「ここは、帰れない場所…」
彼女の言葉は耳元で囁かれるように響き、私は全身が凍りつくような感覚に包まれた。恐怖が一気に押し寄せ、足が動かなくなった。女性は再び黙り込み、無表情のまま私を見つめていた。
「帰れない…?」
その言葉が頭の中で反響し、私は全身が震え始めた。このままでは二度と元の場所に戻れないのではないかという恐怖が、心の中に広がっていった。
「いやだ、帰りたい…」
私は恐怖心に突き動かされ、再び出口を探して駆け出した。どこに向かっているのかも分からず、ただ必死で走り続けた。階段を駆け上がり、暗い通路を進むが、出口への道は見つからない。周りの景色がどんどん歪んでいく中で、私は自分が完全に迷子になってしまったことを悟った。
しかし、その時、突然遠くから電車の音が聞こえてきた。私はその音に向かって再び走り始めた。音は次第に大きくなり、目の前の景色が再びホームへと変わっていった。そして、目の前に電車が滑り込んできた。
「助かった…!」
私は電車のドアが開くのを待ち、飛び込むようにして車内に入った。ドアが閉まり、電車が動き始めると、私はようやく安堵の息をついた。車内には他にも数人の乗客が乗っており、再び現実の世界に戻ってきたことを実感した。
しばらくして電車が停車し、見慣れた駅名が表示された。私はすぐに電車を降り、駅の出口に向かった。外に出ると、そこにはいつもの街が広がっていた。車の音や人々の話し声が聞こえ、普段の生活が戻ってきたようだった。
「一体、あれは何だったんだ…?」
家に帰る道すがら、私はあの見知らぬ駅のことを考え続けていた。あれは現実だったのか、それともただの悪夢だったのか。あの女性が言った「帰れない場所」という言葉が、頭の中で何度も繰り返された。
その後、私は電車に乗るたびに、あの異界のような場所に再び迷い込むのではないかという不安に駆られることがあった。しかし、再びあの駅にたどり着くことはなかった。あの日の出来事は、現実と悪夢の狭間で起こった不可解な体験として、私の記憶に深く刻まれている。
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