私の通っていた中学校には、古びた図書室があった。校舎の一角にひっそりと佇むその部屋は、長い歴史の中で数えきれないほどの生徒たちが通い、数多くの本が積み重ねられてきた。薄暗い棚の間には、古い本の匂いが漂い、時間の流れが止まったかのような静寂があった。
その図書室には、ひとつの不気味な噂があった。それは、「誰にも触れてはいけない本がある」というものだった。その本は、何の変哲もない見た目をしているが、一度読んだ者は恐ろしい運命に巻き込まれるという噂だった。生徒たちはその話を恐れてか、誰もその本を探そうとはしなかった。私もその噂を聞いていたが、あくまで都市伝説のようなものだと思っていた。
しかし、好奇心旺盛な友人のタカシがその本を見つけてしまったのだ。放課後、タカシが私とケンタを誘い、図書室に向かった。タカシはどうしてもその本を見つけたいと言い出し、私たちは半ば強引に付き合わされることになった。
「本当にそんな本があるのか?」ケンタが半信半疑で尋ねたが、タカシは自信満々に言った。
「絶対にあるって。この図書室は古いし、何が隠されていてもおかしくないだろう?」
私たちは図書室の奥へと進んでいった。棚の間を通り抜け、古い本が積み上げられたコーナーにたどり着いた。そこは普段、ほとんど誰も近づかない場所だった。埃っぽい空気が漂い、薄暗い照明が棚の影を長く伸ばしていた。
「これじゃないか?」タカシが一冊の古びた本を引き抜いた。表紙には何のタイトルも書かれておらず、ただシンプルに茶色く染みついた革表紙があるだけだった。
「本当にこれが噂の本か?」私は不安を感じながらも、タカシの方を見た。
「読んでみよう」とタカシは平然と言った。私たちはその場で本を開き、ページをめくり始めた。最初の数ページには、何の変哲もない古い文章が並んでいた。内容は古い詩集のようだったが、どこか不気味な響きを感じた。
しかし、次のページをめくった瞬間、突然図書室の照明がチカチカと点滅し始めた。私たちは驚いて顔を見合わせたが、タカシはなおもページをめくり続けた。
「やめようよ、なんかおかしいよ」ケンタが恐怖を感じたように言ったが、タカシは止まらなかった。ページをめくるたびに、図書室の空気が重くなっていくのを感じた。
そして、次の瞬間、強烈な風が図書室の中を吹き抜けた。窓は閉まっていたはずなのに、まるでどこからか冷たい風が吹き込んでくるようだった。その風は、本をめくるタカシの手元を押し流すかのように、次々とページをめくっていった。
「もういい、やめて!」私は叫びそうになりながらタカシの肩を掴んだ。
すると、突然本が自ら閉じられ、重く響く音が図書室に響いた。その瞬間、図書室全体が静寂に包まれ、私たちは一斉に息を飲んだ。照明が再び安定し、風も止まった。
「何だったんだ…?」ケンタが震える声で言ったが、誰も答えることができなかった。タカシは無言で本を閉じたまま抱きしめ、その顔は青ざめていた。
「これ、元の場所に戻そう」とタカシが呟いた。
私たちは無言のまま、タカシが本を元の棚に戻すのを見届けた。全員が恐怖に凍りつき、その場から逃げるように図書室を後にした。
その夜、タカシが突然高熱を出した。翌日、彼は学校を休んでしまい、しばらくの間登校できなかった。ケンタと私はその話を誰にもできず、ただタカシの回復を祈ることしかできなかった。
数週間後、タカシはようやく学校に戻ってきたが、彼は以前のような元気な姿ではなかった。どこか疲れた様子で、あの日のことについては一切口にしようとしなかった。
あの本が何だったのか、私たちが本当に何を読んでしまったのかは、今でも分からない。ただひとつ言えるのは、あの本には何か恐ろしい力が秘められていたということだ。それ以来、私たちは二度と図書室に近づくことはなくなった。
図書室には今でも、あの本がひっそりと隠されているのだろう。誰も触れることのないまま、ただ静かに、その存在を秘め続けているに違いない。
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