人公の優一は、仕事帰りに都会の片隅を歩いていた。日が沈みかけ、薄暗くなった街角に、ぽつんと佇む古い公衆電話ボックスを見つけた。ガラスは汚れており、緑色の電話機は時代遅れに見えた。このあたりにはもう使われていないものがほとんどで、スマートフォンが普及した今、電話ボックスを見ること自体が珍しかった。
「懐かしいな…」と優一はつぶやきながら、好奇心に駆られてボックスの中に入った。ドアを開けると、軽くきしむ音がした。中は予想通り、埃っぽく、電話機のボタンも色褪せていた。何気なく受話器を取ると、無音の中に何かが動いた気がした。胸にわずかな不安を感じつつも、優一はそれを振り払おうとし、電話機のボタンをいくつか押してみたが、やはり何も起こらなかった。
しかし、受話器を元に戻そうとした瞬間、電話機から突然、雑音が聞こえた。驚いて受話器を耳に近づけると、どこか遠くから響くかすかな声が聞こえてきた。
「助けて…」
その声は弱々しく、聞き取れないほどに途切れ途切れだったが、確かに「助けて」という言葉だった。優一は背筋が凍りつくのを感じたが、声はさらに続いた。
「ここは…どこ…?」
優一は慌てて受話器を耳から離し、周囲を見渡した。外は相変わらず薄暗く、通りを行き交う人々も、誰一人として電話ボックスの異変に気づいていないようだった。再び受話器に耳を近づけると、今度は明確に声が聞こえた。
「そこから出られなくなる…早く逃げて…!」
優一の心臓は激しく鼓動を打ち、急いで電話ボックスのドアに手を伸ばした。しかし、ドアはびくともしない。焦燥感が募り、彼は力任せにドアを引っ張ったが、まるで見えない何かが彼を閉じ込めようとしているかのようだった。
「誰だ!何が起こっているんだ!」優一は必死に叫んだ。
すると、受話器の向こうから再び声が聞こえた。
「あなたも、もう…遅い…」
その瞬間、電話ボックスのガラスがゆっくりと曇り始めた。外の景色がぼんやりと滲み、まるで別の世界に引き込まれるような感覚が襲ってきた。優一は再度ドアに体当たりをしたが、全く動かない。恐怖と絶望が彼を支配し、彼はただ叫び続けた。
突然、ガシャンという音が響き、電話ボックスのドアが開いた。息を切らしながら外に飛び出した優一は、地面に膝をつき、ようやく安堵の息をついた。振り返ると、電話ボックスは元の古びた姿に戻っており、中には誰もいなかった。
彼は急いでその場を立ち去り、二度とその電話ボックスに近づくことはなかった。しかし、あの時聞いた声と、閉じ込められた恐怖は、彼の記憶に深く刻まれ続けた。
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