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夜のパン屋で見つけた小さな幸せ: 中年女性の体験談 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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あれは、私がまだ仕事をしていた頃のことです。年齢を重ねるにつれて、仕事の疲れが以前よりも重く感じられるようになり、家に帰るとすぐに横になりたくなる日が増えていました。特にその日は、会社でトラブルが続き、いつも以上に疲れ切っていました。

家に帰る途中、ふと普段は見かけないパン屋さんを見つけました。深夜にもかかわらず、小さな店の中には温かな光が灯っていて、どこか懐かしい感じがしたのを覚えています。普段ならそのまま通り過ぎてしまうのですが、その日はどうしても気になって、つい店の中に入ってしまいました。

店内に入ると、ふんわりとしたパンの香りが私を迎えてくれました。まるで、幼い頃に母が焼いてくれたパンの香りのようで、心がほっとするのを感じました。棚には色とりどりのパンが並んでいて、どれも見たことのない形や色合いをしていました。でも、どこか温かみがあって、疲れた心を癒してくれるような気がしたんです。

「いらっしゃいませ」

奥から小柄な女性が現れ、私に微笑みかけてくれました。年配の女性で、その笑顔にはどこか安心感がありました。私は棚を見ながら、いくつかのパンを手に取ってみました。

「こちらのパンは特別なんですよ」と、その女性は説明してくれました。「この『安心のあんぱん』は、食べると心が落ち着くんです。そしてこちらの『活力のクロワッサン』、これを食べると翌朝から元気が湧いてきますよ。最後に、この『懐かしさのメロンパン』、これを食べると、昔の幸せな思い出が蘇ってきます。」

私はその言葉に惹かれて、彼女が勧めてくれたパンを一つずつ手に取りました。心の中では「そんなことあるのかしら」と思いながらも、そのパンたちが持つ不思議な力に期待してしまう自分がいました。

レジで会計を済ませると、彼女は優しい笑顔で私にこう言ってくれました。

「どうぞ、ゆっくりお楽しみください。」

その一言が、私にはとても嬉しかったんです。忙しい日々の中で、誰かが私のことを気にかけてくれるような温かい言葉を聞くのは久しぶりだったので、心がじんわりと温かくなるのを感じました。

家に帰り、早速パンを一つずつ味わってみることにしました。まず最初に食べたのは『安心のあんぱん』。甘さ控えめのあんが優しく口の中に広がり、疲れた心が次第に穏やかになっていくのを感じました。まるで、長い一日の疲れが溶けていくようでした。

次に『活力のクロワッサン』を食べました。バターの香りが豊かで、サクサクとした食感が楽しく、食べると体の中にエネルギーが湧いてくるような感覚がありました。これで明日も頑張れそうだと思いました。

最後に手に取ったのは『懐かしさのメロンパン』。一口食べると、幼い頃に母が作ってくれたお菓子の味を思い出しました。何気ない日常の中にあった小さな幸せが心に蘇り、涙が出そうになりました。

あの夜、私は心も体も満たされ、久しぶりにぐっすりと眠ることができました。翌朝目が覚めると、昨日までの疲れが嘘のように消えていて、気持ちよく一日を始めることができました。

その後も、あのパン屋を何度か探しに行ってみましたが、見つけることはできませんでした。まるで、あの日だけ現れた幻のような店でした。でも、その一夜の出来事は、今でも私の心に温かく残り続けています。時々、疲れを感じると、あのパン屋のことを思い出しては、もう一度あの優しい女性に会いたいと願ってしまうのです。



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