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卒論の夜に出会ったパン屋: 父への小さなプレゼント 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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あの夜、私は大学の卒業論文に追われて、遅くまで研究室に残っていました。締め切りが迫っていて、どうしてもその日のうちに一段落させたかったのです。ようやく作業を終えて家に帰る頃には、もう深夜を回っていました。寒さが身に染みる冬の夜で、疲れた体を引きずるようにして帰路についていました。

帰り道の途中、ふと見覚えのない小さなパン屋さんが目に留まりました。普段通る道だったのに、その店のことは一度も見たことがありませんでした。店内からは温かな光が漏れ出ていて、その光がやけに心地よく感じました。私の足は自然とそのパン屋さんへ向かい、扉を押して中に入っていました。

店内には、ほんのりと甘いパンの香りが漂っていて、心がほっとするような感じがしました。棚には色とりどりのパンが並んでいて、どれも美味しそうで、見ているだけで疲れが少し和らぐような気がしました。

「いらっしゃいませ」

店の奥から、小柄な女性が優しい笑顔で現れて、私に声をかけてくれました。「お疲れのようですね。どうぞ、ゆっくりお楽しみください。」

その言葉を聞いた瞬間、私は心の中で少しほっとしました。忙しい日々の中で、誰かに「ゆっくり楽しんで」と気遣われるのは久しぶりでした。

私は棚を見回しながら、いくつかのパンを手に取ってみました。その時、女性が優しく説明してくれました。

「こちらは『活力のクロワッサン』です。これを食べると、体に元気が湧いてきますよ。そしてこちらは『元気のチョココロネ』、一口食べると、疲れた体に力が戻るような甘さです。最後にこの『夢見るカスタードパイ』、食べると心がふわっと軽くなって、まるで夢を見ているかのような気持ちになりますよ。」

その説明を聞いて、私は「活力のクロワッサン」を手に取りました。最近、仕事で疲れている様子の父のことが頭に浮かび、これをプレゼントしたら少しは元気になるかもしれないと思いました。

その他にも、自分用に「元気のチョココロネ」と「夢見るカスタードパイ」を選び、会計を済ませることにしました。レジで会計を済ませると、女性は再び優しい笑顔でこう言ってくれました。

「どうぞ、ゆっくりお楽しみください。」

その一言に、私は心から嬉しくなり、疲れが少し和らぐのを感じました。パンを袋に入れてもらい、家路につきました。

家に帰ると、父はまだ起きてテレビを見ていました。私は自分の部屋にパンを置いてから、ふと「活力のクロワッサン」を手に取り、リビングにいる父のもとへ向かいました。

「お父さん、これ…あげる」と言って、私はそっけなくそのクロワッサンを父に手渡しました。なんだか照れくさくて、うまく言葉にできなかったのです。

父は少し驚いたような表情をしましたが、すぐに笑顔になって「ありがとう」と言いました。その笑顔を見て、私も心の中で密かに嬉しくなりました。父がパンを手に取って嬉しそうに眺めている姿を見て、少しでも元気が出るならプレゼントして良かったと思いました。

その夜、私は自分の部屋で買ってきたパンを一つずつ食べてみることにしました。まず「元気のチョココロネ」を一口食べると、濃厚なチョコレートが口の中に広がり、体に力が湧いてくるのを感じました。まるで、長い一日の疲れが少しずつ和らいでいくようでした。

次に「夢見るカスタードパイ」を食べました。サクサクのパイ生地と滑らかなカスタードクリームが絶妙で、食べるたびに心が軽くなっていくのを感じました。夜遅くまでの作業で疲れていた体と心が、パンの甘さとともに癒されていくのがわかりました。

翌朝、父は朝食に「活力のクロワッサン」を食べて、とても満足そうな顔をしていました。「これ、すごく美味しいな!お父さん、元気が出てきたよ」と笑顔で言ってくれました。その姿を見て、私は心の中で嬉しさがこみ上げてきました。自分が選んだものが、少しでも父の力になったのだと感じることができたからです。

その後、父があのパン屋のことを気に入り、「また買ってきてほしいな」と言いましたが、あの「夜のパン屋」を再び見つけることはできませんでした。父も少し残念そうでしたが、私が「もしかしたら、神様が特別にくれたパンだったのかもね」と言うと、父は笑って「そうかもしれないな」と言いました。

その夜に出会ったパン屋さんと、そこで買ったパンの思い出は、今でも私の心に温かく残っています。卒論で疲れていた夜に見つけた小さな幸せと、それを父と分かち合えたことが、私にとって何よりの癒しでした。



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