あの夜、僕は部活で遅くなってしまい、家に帰る頃にはもう夜の10時を過ぎていた。テニス部の練習試合が予定よりも長引いてしまい、クタクタになった体で駅から家までの道を歩いていた。お腹も空いていて、早く家に帰って何か食べたいと思いながら、とぼとぼと歩いていたんだ。
そんな時、ふと道の向こうに見慣れない小さなパン屋が目に入った。普段は通り過ぎるだけの商店街の一角に、夜遅くにもかかわらず温かな光が漏れ出ているのが見えたんだ。あんなところにパン屋なんてあったっけ?と不思議に思いながらも、空腹と好奇心に引かれて、その店に足を踏み入れてしまった。
扉を開けると、店内にはふんわりと甘いパンの香りが漂っていて、思わずお腹が鳴りそうになった。疲れた体を癒してくれるような香りが心地よくて、なんだかホッとする感じがした。棚には色とりどりのパンが並んでいて、どれも見たことのない形や名前ばかりだった。
「いらっしゃいませ」
店の奥から、小柄な女性が優しい笑顔で現れて、僕に声をかけてくれた。「疲れてそうですね。お疲れ様です。どうぞ、ゆっくりお楽しみください。」
その言葉を聞いた瞬間、心の中が少し温かくなった気がした。こんな時間に誰かに「お疲れさま」と言われるのは初めてで、ちょっと嬉しかった。
僕は棚を見回しながら、いくつかのパンを手に取ってみた。どれも普通のパンとは一味違っていて、選ぶのが楽しかった。
「こちらは『スタミナコーンブレッド』です。トウモロコシの甘さと、体に元気を与えるスパイスが効いていますよ。そしてこちらは『リラックスバナナマフィン』、バナナの甘さが心を落ち着かせてくれます。最後に、この『眠りのミルクロール』、これを食べるとぐっすり眠れるでしょう。」
その説明を聞いて、僕はすぐに「スタミナコーンブレッド」を手に取った。部活で疲れた体にはぴったりだと思ったからだ。さらに、「リラックスバナナマフィン」と「眠りのミルクロール」も選んでみた。どれも美味しそうで、家に帰ったらすぐに食べようと思った。
レジで会計を済ませると、女性はまた優しい笑顔でこう言ってくれた。
「どうぞ、ゆっくりお楽しみください。」
その一言に、僕は心がふわっと軽くなるのを感じた。こんな風に誰かに気遣われるのは久しぶりで、何気ない言葉がこんなにも嬉しいものだとは思わなかった。
パンを袋に入れてもらい、家に帰る途中で思わず袋を覗き込んでしまった。早く家に帰って、このパンを食べたい気持ちが膨らんでいった。
家に帰ると、母さんがまだ起きていて、僕が帰るのを待っていた。「おかえり、遅かったね。何か買ってきたの?」と声をかけてくれた。僕は「うん、ちょっと珍しいパンを買ってきたんだ」と言いながら、袋を取り出して見せた。
その夜、僕は早速「スタミナコーンブレッド」を食べてみた。甘さとスパイスが絶妙に混じり合っていて、一口食べるごとに体に元気が戻ってくるような感じがした。部活で疲れ切っていた体が、少しずつ活力を取り戻していくのを感じた。
次に「リラックスバナナマフィン」を食べてみた。バナナの自然な甘さが口の中に広がり、疲れた心がふんわりと癒されていくのがわかった。マフィンを食べていると、なんだかホッとした気持ちになり、心が落ち着いていくのを感じた。
最後に「眠りのミルクロール」を食べると、ミルクの優しい甘さがじんわりと広がり、まるで眠りに誘われるような感覚があった。その夜は、ベッドに入るとすぐにぐっすりと眠りにつくことができた。
翌朝、母さんに「昨日のパン、美味しかったよ」と伝えると、母さんも興味を持ったようで「今度、そのパン屋さんに一緒に行ってみたいね」と言った。でも、僕が「不思議なんだ、あのパン屋、今まで見たことなかったんだよ」と言うと、母さんも「それって本当に不思議ね」と言っていた。
その後、何度かそのパン屋を探してみたけれど、あの夜見つけた場所にはもうパン屋はなかった。まるで夢の中の出来事のように、その店は消えてしまったんだ。
だけど、あの夜に食べたパンの味は、今でも僕の心に残っている。部活で疲れた帰り道に見つけた小さな幸せが、僕にとって大切な思い出となっているんだ。
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