私たちは、母と二人で暮らしている母子家庭です。母は朝から晩まで働いて、家に帰ってからも家事をこなしてくれています。私もできる限り手伝おうと、掃除や洗濯、夕食の準備をするようにしているけれど、母の忙しさにはとても及びません。最近は特に、母が夜遅くまで眠れずにいるのが気になっていました。疲れているのに、ベッドに入ってもなかなか寝つけない様子で、何度も寝室から出てくるのを見かけるようになりました。
あの日も、私は部活の帰りが遅くなり、家に着いたのは夜の10時を過ぎていました。駅から家に向かう道を歩いていると、ふと普段は見かけない小さなパン屋さんが目に入りました。夜遅くなのに、店の中からは温かな光が漏れていて、どこかほっとするような雰囲気がありました。
「こんな時間にパン屋さん?」と不思議に思いながら、私はその店に足を運んでみました。扉を開けると、店内にはふんわりとしたパンの香りが漂っていて、疲れた体が少し軽くなるような感じがしました。
「いらっしゃいませ」
店の奥から、小柄な女性が優しい笑顔で現れて、私に声をかけてくれました。「部活帰りですか?お疲れさまでした。どうぞ、ゆっくりお楽しみください。」
その言葉を聞いた瞬間、心が温かくなるのを感じました。最近、忙しさに追われて誰かに気遣われることも少なくなっていたので、その一言がとても嬉しかったのです。
私は棚を見回しながら、いくつかのパンを手に取ってみました。その中で目に留まったのが、「眠りのミルクロール」でした。
「こちらは『眠りのミルクロール』です。これを食べると、疲れた心と体がふんわりと癒され、ぐっすりと眠れるでしょう」と女性は説明してくれました。
その言葉を聞いた瞬間、本当かな?と疑問に思いましたが、すぐに母の顔が浮かびました。最近、母がよく眠れずにいることを思い出し、このパンをプレゼントしたら少しでも眠れるようになるかもしれない、と思いました。
私は「眠りのミルクロール」を手に取り、その他にも自分用に「リラックスバナナマフィン」や「スタミナコーンブレッド」を選んで会計を済ませました。女性は再び優しい笑顔で、「どうぞ、ゆっくりお楽しみください」と言って、パンを袋に入れて渡してくれました。
家に帰ると、母はまだ起きてキッチンで何かしていました。私は「お母さん、今日もお疲れ様」と言いながら、「これ、あげる」と「眠りのミルクロール」を手渡しました。母は少し驚いたようでしたが、私がパンを買ってきたことに気づき、優しく微笑んでくれました。
「ありがとう」と言いながら、母はパンを手に取り、袋から取り出して見つめました。その姿を見て、私は少しでも母の役に立てたことが嬉しく、胸が温かくなりました。
その夜、母は夕食の後に「眠りのミルクロール」を食べていました。柔らかなパンの生地に包まれたミルクの優しい甘さが広がると、母の表情が少しずつ和らいでいくのがわかりました。
「これ、すごく美味しいわね」と母は笑顔で言いました。その後、母は早めにベッドに入り、ぐっすりと眠りについたようでした。
翌朝、母はいつもよりすっきりとした顔で起きてきて、「昨夜はよく眠れたわ」と言ってくれました。あの「眠りのミルクロール」が、母の疲れを少しでも癒してくれたのだと思うと、私も嬉しくなりました。
それから、母は「またあのパン屋さんでパンを買いたいわね」と言いましたが、残念ながらそのパン屋さんはその後見つかりませんでした。まるで一夜限りの奇跡のように、あの場所にはもう店はありませんでした。
「きっと神様が特別にくれたパンだったんだね」と母が優しく言い、私は「そうだね」と頷きました。母の言葉が、私の心に深く染み込んだ瞬間でした。
その夜に出会ったパン屋さんと、そこで買った「眠りのミルクロール」の思い出は、今でも私たち母子の心に温かく残っています。母が少しでも休めるようにと願ったその気持ちが、私にとって大切な思い出となりました。
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