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止まったエレベーター――閉ざされた空間の恐怖 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その日は仕事が長引き、会社を出たのはすでに夜遅くなってからでした。ビルのフロアにはほとんど誰もおらず、オフィスの灯りもぽつぽつと消えていました。私は疲れた体を引きずるようにエレベーターに向かいました。

エレベーターのドアが静かに開き、私は無意識のうちに乗り込みました。1階のボタンを押し、背中を壁にもたれさせました。エレベーターはゆっくりと下降を始め、静かに動いていました。もうすぐ帰れるという安堵感が、私の体を少し軽くしたように感じました。

しかし、突然エレベーターがガタガタと揺れ、急に止まりました。私は驚いて姿勢を正し、階数表示を見ましたが、ちょうどフロアの間で止まっていることがわかりました。

「まさか…故障?」

嫌な予感が頭をよぎりました。エレベーターの非常用インターホンに手を伸ばし、ボタンを押してみましたが、何の反応もありませんでした。外の音が聞こえず、エレベーター内は不気味なほど静かでした。携帯電話を取り出しても、電波は届いておらず、何度試しても繋がりません。

「どうしよう…」

エレベーターの狭い空間に閉じ込められた状況に、次第に焦りが募ってきました。深呼吸して冷静になろうとしましたが、周囲の静寂が一層の不安をかき立てました。

すると、突然エレベーターの照明が一瞬消え、真っ暗になりました。息が止まるほどの恐怖が襲ってきましたが、すぐに照明が再び点灯しました。ほっとする間もなく、今度は天井から微かに誰かが話しているような囁き声が聞こえてきました。

「ここにいる…」

私はその声に震え上がり、音のする方向を見回しましたが、誰もいませんでした。エレベーター内は私一人のはずなのに、囁き声は確かに聞こえ続けていました。まるで壁の向こう側、あるいは天井の上から誰かが語りかけているかのように。

「誰だ!?」

私は声を上げましたが、返ってきたのはさらに囁き声が増幅したような音でした。

「出られない…ずっとここに…」

その瞬間、エレベーターの天井にある非常用の小さな扉が、ゆっくりと開き始めました。まるで何かが私を見下ろしているような感覚に襲われ、私は背中を壁に押し付けて後ずさりしました。

冷たい空気がエレベーター内に流れ込み、視界がかすかに歪み始めました。まるで、この空間そのものが異質な何かに支配されているようでした。恐怖に駆られ、私はエレベーターのドアを叩き、必死で助けを求めましたが、エレベーターは無反応のままでした。

再び照明がちらつき、エレベーター内は再び真っ暗になりました。今度は、完全に消えてしまったかのように感じられました。私は息を殺し、何が起こるのかを待つしかありませんでした。

次の瞬間、何かが私の肩に触れる感触を覚えました。冷たく、重い手が私の肩を掴んでいるようでした。反射的にその手を振り払おうとしましたが、誰もいないことに気づきました。恐怖がピークに達し、叫び声を上げようとした瞬間、エレベーターが再び動き始めました。

照明が点灯し、エレベーターは静かに下降を続けました。私は恐怖で体が硬直し、声も出せないまま、ただエレベーターの停止を待ちました。やがて、1階に到着し、ドアが開きました。

私は飛び出すようにエレベーターから出て、息を切らしながら振り返りました。エレベーターの中は何事もなかったかのように静まり返っていましたが、私はあの時感じた恐怖を忘れることができませんでした。

それ以来、私は深夜にエレベーターに乗ることを極力避けるようになりました。あの時、エレベーターの中で何が起こったのかはわかりませんが、一つだけ確かなことがあります。あの空間には、何か得体の知れない存在がいたのだと。



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