あれは、今でも忘れられない恐怖の体験です。仕事が立て込み、深夜まで残業をしていた日のことでした。ビルはいつもなら多くの人で賑わっているのに、その夜は静まり返り、誰一人いませんでした。
深夜1時頃、ようやく仕事を終えた私は、エレベーターに向かいました。疲労で体は重く、早く家に帰りたい一心で、エレベーターのボタンを押しました。静かにドアが開き、私は無意識のうちに乗り込みました。
ドアが閉まり、1階のボタンを押すと、エレベーターはゆっくりと下降を始めました。ほっとしたのも束の間、突然ガタガタと大きく揺れ、エレベーターが急に停止してしまったのです。慌てて階数表示を見ましたが、ちょうど5階と4階の間で止まっていました。
「嘘だろ…」
私は動揺しながらも、まずは落ち着こうと深呼吸をしました。非常用インターホンのボタンを押しましたが、応答がありません。携帯電話を取り出しても圏外で、どうしようもない状況に追い込まれました。
エレベーター内は薄暗く、妙にひんやりとしていました。閉ざされた空間で一人きり、時間が過ぎるのが異常に遅く感じられました。5分、10分…いや、もっと長い時間が経ったように思えましたが、エレベーターは一向に動く気配がありませんでした。
「助けを呼ばなきゃ…」
焦りが募り、再びインターホンを何度も押しましたが、やはり反応はありません。私は次第にパニックに陥り始めました。外の音も何も聞こえず、ただ静寂だけがエレベーター内を支配していました。
その時でした。突然、背後でかすかな音が聞こえたのです。
「コツ…コツ…」
まるで誰かが靴で歩いているかのような音が、エレベーター内に響き渡りました。私はその音に耳を傾け、背中に冷たい汗が流れるのを感じました。エレベータ内には私しかいないはずです。後ろを振り返る勇気が出ず、ただその音が止むのを待つしかありませんでした。
「…ここにいる…」
次に聞こえてきたのは、かすれた囁き声でした。エレベーターの狭い空間に、明らかに自分以外の何かが存在していることを感じました。声は低く、不気味な響きを帯びていました。心臓が早鐘のように打ち、息が詰まりそうになりました。
「…出して…」
その声が再び耳元で囁かれた瞬間、私は恐怖のあまり全身が凍りつきました。誰かが私のすぐそばにいる感覚があり、次第に息苦しさが増していきました。見えない存在が私に迫ってくるようで、どうしようもない恐怖が全身を包みました。
「誰か…助けてくれ!」
私は叫びましたが、声がエレベーター内に虚しく響くだけでした。誰も助けに来る気配はなく、ただその囁き声だけが消えることなく続きました。
「…出して…ここから…」
その声は繰り返し囁かれ、次第に大きくなっていきました。まるでエレベーターの壁が閉じ込めた何かが、私に助けを求めているかのようでした。
「やめてくれ…!」
私は壁に向かって必死に叫びましたが、声は届かないようでした。すると突然、エレベーターの照明がちらつき始め、完全に消えてしまいました。真っ暗な空間に取り残され、私は恐怖のあまり動けなくなりました。
その時、何か冷たいものが私の肩に触れました。反射的に振り払おうとしましたが、そこには何もいませんでした。しかし、確かに冷たい手の感触がありました。私はもう恐怖で頭が真っ白になり、ただその場に立ち尽くすしかありませんでした。
何分経ったのか分かりません。気がつくと、エレベーターの照明が再び点灯し、静かに下降を再開しました。私は息を整え、目を閉じて祈るようにしていました。
やがて、エレベーターは1階に到着し、ドアが開きました。見慣れたロビーが目の前に広がっていましたが、私はすぐにエレベーターから飛び出しました。背後でドアが静かに閉まる音が聞こえましたが、振り返ることはできませんでした。
外に出た瞬間、現実の世界に戻ってきたかのような感覚がありました。しかし、あのエレベーター内での出来事が現実だったのか、幻覚だったのか、今でもはっきりしません。ただ、あの空間には確かに何かが存在していたのです。
それ以来、私はエレベーターに乗ることが怖くなりました。あの閉ざされた空間に再び閉じ込められたら、次は何が起こるのか考えたくもありません。それでも、今でも夜遅くにエレベーターを見ると、あの時の恐怖が蘇り、背筋が凍るような感覚に襲われます。
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