怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

エレベーターで出会った異次元の訪問者 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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それは、ある平凡な日の帰り道で起こった出来事です。仕事を終えてオフィスを出た私は、いつものようにエレベーターに乗り込みました。夕方で、ビルの中にはまだ多くの人が残っており、エレベーターも頻繁に行き来していました。私が乗ったエレベーターには他に誰もおらず、いつも通り1階のボタンを押して、無意識にため息をつきました。

エレベーターは静かに動き始め、階数表示がひとつずつ下がっていきました。今日は特に疲れたな、早く家に帰って休みたい。そんなことを考えながらぼんやりと階数表示を見つめていた時、突然エレベーターがガタガタと揺れ、急に止まってしまいました。

「また故障か…」

そのビルは比較的新しいものの、エレベーターの調子が良くないことで知られていました。私は慌てることなく、非常用インターホンのボタンを押して待つことにしました。少し時間がかかるかもしれないけれど、そのうち動くだろう、そんな風に楽観的に考えていました。

しかし、インターホンを押しても、誰も応答しません。仕方なくもう一度ボタンを押し、携帯電話を取り出してみましたが、なぜか圏外表示が出ています。少し不安になりながらも、エレベーターの中でじっとしているしかありませんでした。

その時、何の前触れもなく、エレベーターの照明が一瞬だけチカッと点滅しました。驚いて天井を見上げたものの、すぐに明かりが安定し、何事もなかったかのように落ち着きました。

「なんだ今の…?」

そう思った瞬間、エレベーターのドアが突然開きました。目の前には見慣れたロビーが広がっていると思いきや、そこに広がっていたのは、まったく見覚えのない空間でした。薄暗い廊下がずっと奥まで続き、どこか古い建物のような印象を受けました。

「…ここ、どこ?」

私は一瞬、夢でも見ているのかと思いましたが、これは現実のようでした。エレベーターは確かにビルの中のはずですが、ドアが開いた先はまるで別の場所に繋がっているかのようでした。気になりながらも、私はその空間を見つめ続けました。

すると、廊下の奥から、ゆっくりと誰かが歩いてくるのが見えました。姿がはっきりと見えるようになると、その人物は年配の男性でした。背筋がピンと伸び、どこか品のある風貌でした。彼は私に気づくと、穏やかな微笑みを浮かべて近づいてきました。

「お困りですか?」

その男性は、私にそう問いかけました。私は驚きながらも、「はい、エレベーターが止まってしまって…」と答えました。彼はゆっくりと頷きましたが、その顔にはどこか懐かしいような表情が浮かんでいました。

「ここは少し特別な場所なんですよ。時々、エレベーターがこの空間に繋がることがあるんです。」

私は彼の言葉に戸惑いながらも、どうしてそんなことが起こるのかを尋ねました。すると彼は、優しい口調で語り始めました。

「この場所は、昔の記憶や思い出が集まるところなんです。ここに来ると、懐かしい過去や忘れていたことが思い出されることがあります。あなたも、きっと何かを思い出すためにここに来たのかもしれませんね。」

彼の言葉を聞いていると、私はふと、幼い頃の思い出が頭に浮かんできました。昔、家族でよく訪れていた祖父の家の廊下が、まさに目の前に広がっている光景とそっくりだったことを思い出したのです。

「もしかして、これは祖父の家…?」

私は自分でも驚きましたが、その男性は優しく微笑んで頷きました。「きっとそうでしょうね。この場所は、あなたにとって大切な場所なのかもしれません。」

その言葉を聞いた瞬間、私は祖父と過ごした懐かしい日々が次々と脳裏に浮かんできました。彼と話したこと、遊んだこと、そして彼の温かい笑顔。すべてが鮮明に思い出されました。

「ここに来たのは偶然ではないのかもしれませんね。」と彼は続けました。「過去を振り返り、大切なことを思い出す機会が必要だったのかもしれません。」

私はしばらくの間、その廊下を見つめていました。次第に気持ちが落ち着き、懐かしさとともに、どこか安心感が広がっていきました。

やがて、男性はゆっくりと微笑みながら、「そろそろ戻る時間です。」と言いました。その言葉とともに、エレベーターのドアが静かに閉まりました。私は何も言わずにただ頷きました。

エレベーターは再び動き出し、やがて1階に到着しました。ドアが開くと、いつもの見慣れたロビーが広がっていました。まるで何事もなかったかのような静けさが戻ってきた瞬間、私は今の出来事が現実だったのか夢だったのか分からなくなりました。

ただ一つ確かなのは、あのエレベーターでの体験が、私にとって大切な何かを思い出させてくれたということです。今でも時折、あの廊下と男性の優しい微笑みを思い出し、心が温かくなることがあります。あの体験は、怖さよりも不思議で少し奇妙なものでしたが、私にとって忘れられない出来事となっています。



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