それは、いつも通りの日常の一幕でした。私はビルの8階にあるオフィスで働いており、毎日エレベーターを使って出勤していました。何度も乗り降りしているエレベーターで、特に不安を感じたことは一度もありませんでした。
しかし、その日は少し違っていました。仕事を終えて帰ろうとした時、ふとエレベーターの前に立つと、妙な違和感を覚えたのです。エレベーターのドアがゆっくり開いた瞬間、何か冷たい風が吹き抜けたような気がしました。軽く首を振り、そんなはずはないと自分に言い聞かせながらエレベーターに乗り込みました。
いつものように「1階」のボタンを押し、エレベーターが動き始めました。ところが、2階ほど降りたあたりで、突然奇妙な音が聞こえ始めました。
「カツ…カツ…」
それは、まるで金属が擦れるような音でした。私は思わず耳を澄ませましたが、その音は次第に大きく、そして不規則に響いてきました。金属音とともに、まるで何かが内部で蠢いているかのような鈍い音も混ざっていました。
「何だ、この音…?」
私はエレベーターの隅に身を寄せ、周囲を見回しました。しかし、エレベーター内には私一人だけで、他には何もありませんでした。音の正体が分からず、私は不安を感じ始めました。
エレベーターは順調に下降を続けていましたが、音は一向に止むことはありませんでした。むしろ、階数が下がるにつれて、その音はますます大きく、そしてどこか不気味な響きに変わっていきました。
「カツ…カツ…ギシ…ギシ…」
音はまるで、何かがエレベーターの壁を引っ掻いているかのようでした。私はもう一度、天井や壁を見上げましたが、どこにも異常は見当たりません。エレベーターが故障しているのか、それとも何か別の原因があるのか、頭の中で様々な考えが巡りました。
突然、エレベーターがガタッと大きく揺れました。私は驚き、手すりにしがみつきました。エレベーターの動きは一瞬止まり、再び音が鳴り響き始めました。
「カツ…ギギ…カツ…」
音はまるでエレベーターの外から、何かが必死に中へ入ろうとしているような、そんな印象を受けました。まるで壁の向こう側で何者かが這いずり回っているかのようでした。背筋に冷たいものが走り、私は不安が恐怖に変わっていくのを感じました。
「もう少しで1階だ…早く、早く着いてくれ…」
私は心の中で必死に祈りながら、エレベーターが停止するのを待ちました。しかし、音はますます大きく、そして明確に聞こえてきました。まるで、すぐ隣で何かが蠢いているかのように。
そして、突然エレベーターが停止しました。私の視線は瞬時に階数表示に向かいましたが、そこには「1階」の表示が灯っていました。ホッと胸を撫で下ろしましたが、その瞬間、音がぴたりと止まりました。
静寂が訪れました。エレベーターのドアがゆっくりと開き、私は急いで外に飛び出しました。ビルのロビーには誰もおらず、外の暗い夜道が見えるだけでした。私は心臓の鼓動が少し落ち着くのを待ちながら、もう一度エレベーターの中を見ました。
そこには何もなく、ただいつも通りのエレベーターが静かに佇んでいるだけでした。しかし、あの不気味な音が耳に残っており、私はもう一度エレベーターに乗る気にはなれませんでした。
その後、同僚にあの音のことを話しましたが、誰も心当たりはないと言います。エレベーターの点検をしても異常は見つからなかったとのことでした。
それ以来、私は夜遅くまで残業することを避けるようになりました。あのエレベーターに再び乗ることが怖くなったからです。あの時聞こえた音の正体が何だったのか、今でも分かりません。ただ一つ言えるのは、あの音が普通のものではなかったということだけです。
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