それは、ある夜のことでした。私は普段通り、夜遅くまで仕事をして、疲れ果ててベッドに入った。その夜も、特に変わったことはなく、ただ一刻も早く眠りにつきたいという気持ちだけで横になった。そして、いつの間にか深い眠りに落ちていった。
気づくと、私は見知らぬ場所に立っていた。目の前には、古びた商店街が広がっていた。薄暗い空の下、明かりに照らされた賑やかな露店が立ち並び、多くの人々が行き交っていた。
「ここは…どこだろう?」
見たこともない街並みに戸惑いを感じながらも、どこか懐かしさを覚える奇妙な感覚があった。周りを見渡すと、色とりどりの果物や雑貨が並び、通りからは美味しそうな香りが漂っていた。
夢だろうか?そう思いながらも、私はその街を歩き始めた。露店には活気があふれており、どの店も魅力的に見えた。商店街は、どこか現実離れしているような印象を受けたが、その分、私は興味をそそられ、自然と足を進めていった。
しばらく歩くと、果物を売っている露店の前で足が止まった。山積みにされた見たこともない果物たちが、鮮やかに輝いていた。そこで、おばさんが元気よく私に声をかけてきた。
「お兄さん、ちょっと試食していかない?」
笑顔のおばさんは、まるで私がそこに来ることを知っていたかのように自然に声をかけてくる。彼女は、手に持っていた果物を私に差し出した。それは、鮮やかな黄色と紫色が混ざり合った、見たこともない不思議な果物だった。
「これ、食べたことないでしょ?どうぞ、どうぞ。」
勧められるまま、私はその果物を受け取り、恐る恐る一口かじってみた。すると、その果実は驚くほどジューシーで、甘さと酸味が絶妙に混ざり合った、今までに経験したことのない味だった。
「これは…美味しいですね!何という果物ですか?」
私がそう尋ねると、おばさんはニコニコと笑って言った。
「この街でしか手に入らない特別な果物よ。この味、気に入ってくれて嬉しいわ。」
その言葉に、私は少し驚きながらも、自分が確かにここには住んでいないことを認識した。ここはどこか別の場所――普段の生活の中には存在しない、異世界のような街だという感覚がじわじわと広がっていった。
おばさんと話をしていると、急に誰かが後ろから私に話しかけてきた。
「お兄さん、少しよろしいですか?」
振り返ると、警察官のような制服を着た男が立っていた。彼の表情は穏やかだが、その目には何か厳しさを感じた。
「あなたはこの街の住人ではありませんね。この場所にいてはいけません。元の世界に戻ってください。」
「え…、でも…」
私は言葉に詰まった。確かに、この街には何の記憶もなく、今までに見たこともない場所だが、警察官の言葉があまりにも唐突だった。しかし、その男性は私の戸惑いを無視するように続けた。
「この街は、別の世界の人々が来る場所ではありません。あなたは帰らなくてはならない。」
その時、おばさんが少し残念そうな表情を浮かべた。
「あら、あなた、別の世界の人だったのね。そういうことなら仕方ないわ。けど、せっかくだからこれを持って行きなさい。元の世界じゃ、こんな味はなかなか食べられないでしょうから。」
そう言って、おばさんは、さっき試食した果物を一つ渡してくれた。それを手に取ると、不思議な温かさが手のひらに伝わってきた。
「ありがとう」と私が答えると、おばさんは優しい笑顔で「じゃあ、さようなら」とだけ言った。
警察官の男は再び真剣な表情で「二度とこちらの世界に来てはいけません」と警告をしてきた。私はそのまま警察官に促され、歩き出した瞬間、ふっと夢から目が覚めた。
ベッドの中で目を開けた瞬間、現実の世界に戻ってきたことに気づいた。いつもの部屋、いつもの静かな夜。しかし、夢だったとは思えないほどリアルな感覚が、まだ体中に残っていた。
「変な夢だったな…」
そう呟きながら起き上がろうとした時、手に何かを握っていることに気づいた。恐る恐る手を開くと、そこには夢の中でおばさんから手渡されたあの果物が現実にあった。
「まさか…」
私はその果物をじっと見つめた。夢の中の出来事が現実に存在するなんて、あり得ないはずだ。でも、その果物は確かに手の中で輝いていて、甘い香りが漂ってきた。
夢のようで、夢ではなかった。あの商店街は本当に存在していたのだろうか。もしかしたら、またあの街に戻れるかもしれないという期待が心の奥に湧いてきたが、警察官の言葉が耳にこだましていた。
「二度とこちらの世界に来てはいけませんよ。」
その言葉が、私を現実に引き戻していた。
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