その夜、私はいつものようにベッドに入り、深い眠りに落ちました。しかし、次に目を覚ましたとき、そこは見たこともない街でした。
目の前には、活気にあふれた商店街が広がっていました。色とりどりの露店が軒を連ね、人々が行き交い、笑い声や商売の声が絶えません。街並みは、どこかで見たことがあるような雰囲気を漂わせながらも、どこにも属していない不思議な場所でした。
ヨーロッパの古い石畳の通りが、古いアジアの木造建築に囲まれていました。中世風の建物の隣には、未来的な光を放つ金属製の看板があり、装飾もまるでバラバラの時代や文化が無理やり一緒に存在しているかのようでした。アジアでもない、ヨーロッパでもない、そしてどこか違う――そんな不思議な世界が広がっていたのです。
「ここは…どこなんだろう?」
私は驚きながらも、その異質な街並みに惹かれ、自然に足を進めていました。時代も文化も違う装飾品が並ぶ露店には、見たこともない品々が売られ、通りからは香ばしい匂いや音楽が流れてきます。
しばらく歩いていると、ふと古びた看板が目に入りました。骨董品を扱う小さな店で、扉の前にかかっている看板は古代文字のようなものが刻まれていましたが、意味は理解できませんでした。それでも私は、なぜかその店に引き寄せられるように足を踏み入れました。
中は薄暗く、どこか重い空気が漂っていました。棚には謎めいた機械や、錆びた古道具、そして見たことのない装飾品が所狭しと並んでいました。私が店内を見渡していると、店の奥から老人がゆっくりと近づいてきました。彼は長い白髪と髭を持ち、小さな眼鏡越しに私を見つめました。
「珍しいお客さんだね。ここに来るとは、なかなかの縁だ。」
彼は微笑を浮かべながら、私に挨拶しましたが、その言葉に戸惑うよりも、周囲の物に目を奪われていました。特に、目の前の棚に置かれた奇妙な物体に。
それは、懐中時計のような形をしていましたが、今まで見たこともないデザインでした。一般的な時計とはまるで違い、パッと見ただけでは時計だとは思えない形状でした。円形の本体は、幾何学的な模様が複雑に刻まれており、歯車や数字が外に露出している部分もありました。中心には、目を引く赤い石がはめ込まれていて、そこから微妙に光が放たれていました。全体が淡く輝いており、どこか神秘的で不思議な魅力を持っていました。
さらに驚いたことに、その時計はすでに動いていました。小さな針が、ゆっくりと時間を刻んでおり、微かなカチカチという音が耳に届きました。
私はその時計に見入ってしまい、手を伸ばそうとした瞬間、背後から声がかかりました。
「お嬢さん、少しお時間を。」
振り返ると、そこには警察官のような制服を着た男が立っていました。彼は真剣な表情で、私を見つめていました。
「あなたはこの街の住人ではありませんね。ここにいてはいけません。元の世界へ戻らなければなりません。」
私は驚き、どう答えればいいのか分からず、彼の言葉に動揺しました。しかし、どこかその警告が当然のように感じられ、私は無言のまま頷きました。
その時、老人が再び静かに話し始めました。
「まあまあ、そんなに急かさないでおくれ。この世界に来た記念に、これを持って行きなさい。」
そう言って、彼はさっき私が目を奪われていたあの奇妙な懐中時計を手渡してきました。
「これは…」
手に取ると、その時計は冷たく重みがありましたが、不思議と手にしっくりと馴染みました。時計の針は変わらず動き続けており、その音が何かしらのリズムを刻んでいるようにも感じられました。
「これを、私が持って行っていいんですか?」
私は戸惑いながら尋ねましたが、老人は穏やかな微笑みを浮かべながら答えました。
「もちろん。元の世界では手に入らないものだからね。記念にどうぞ。」
老人の言葉はどこか重く、そして謎めいていましたが、警察官の男は私を急かすように促しました。
「さあ、行きましょう。二度とこちらの世界には来ないようにしてください。」
私は不思議な時計を手に握りしめ、店を後にしました。そして、気がつくと、ふっと目が覚めました。
私はベッドの中に戻っており、静かな夜が広がっていました。すべてが夢だったのか――そう思いながら起き上がろうとしたその瞬間、手に何か冷たいものを握りしめている感触が残っていることに気づきました。
ゆっくりと手を開くと、そこには夢の中で渡されたあの懐中時計が現実にありました。針は静かに動き続けており、あの老人の言葉が頭の中に蘇りました。
夢だと思っていた世界が、現実だったのかもしれないという感覚が私の中に広がり、私はその時計をじっと見つめ続けました。
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