私は学校の用務員をして、もう20年以上が経ちます。普段は、教師や生徒たちが帰った後、校舎の掃除や備品の管理をしています。長年この仕事をしていると、夜の学校でいろいろと不思議なことや、少し不気味なことにも出くわすことがありますが、あれほど不可解で、恐ろしい体験をしたのは、後にも先にも一度きりです。
それは、数年前のことでした。いつものように、生徒たちが帰った後の校舎を見回り、最後の掃除をしていた時のことです。その日は普段より少し遅くまで残業が続き、校内には私ひとりしかいませんでした。
廊下を歩いていると、視界の隅に何かが動いた気がしました。誰かいるのかと思い、周囲を見渡しましたが、廊下には私以外誰もいません。気のせいかと思い、そのまま歩いていると、再びその感覚――今度は、はっきりと分かりました。何かが、私のすぐ後ろで動いている。
恐る恐る後ろを振り返っても、やはり誰もいない。でも、妙な違和感がありました。廊下のライトに照らされている自分の影…その影が、いつもと何かが違うように見えるのです。
「なんだ…これ?」
私の影の形が、少しおかしい。よく見ると、私の影の隣に、もう一つの影が並んでいたのです。最初は目の錯覚かと思いましたが、その影は明らかに人の形をしているのに、そこには何もいない。それなのに、私の影と同じように廊下の床に映り、動いている。
その影は、私の隣を歩いているように動き始めました。廊下を一緒に歩いているかのように、私と並んでゆっくりと進んでいきます。恐怖で体が固まりましたが、なぜか足は勝手に動き、私もその影と一緒に歩き続けました。影は無言のまま、私のペースに合わせてくる。
「これは、人間の影じゃない…」
直感的にそう感じました。普通、人の影はその人物に従って動くはずです。しかし、この影には何かが違う。影の動きが、私の動きに従っているのではなく、独自の意思を持っているように感じられたのです。
さらに不可解なことに気づきました。私が廊下の曲がり角に差し掛かったとき、その影は私の前に出て、先に角を曲がっていきました。私は動揺しながらも、影の後を追って角を曲がりました。
そこには――何もないはずでした。
でも、そこにあったのは、自分と全く同じ姿をした「もう一人の私」でした。いや、姿形は私と瓜二つですが、表情がどこかおかしい。無表情で、ただこちらをじっと見つめていました。
「なんだこれは…?」
私は恐怖で声を出せませんでした。その存在は、私の目の前に立ち尽くしているのですが、本体が現れた代わりに影はどこにもなくなっていました。そして、その無表情な「私」はまるで、自分の影を探しているかのように、周囲を見回していました。
そして――私の影を見つけると、その瞬間、異常なことが起こりました。
私の足元に映っていた「影」が、その「もう一人の私」に吸い込まれていったのです。影は、私ではなく、その存在に取り込まれていきました。そして、その「私」は、不気味な笑みを浮かべました。
「影が…取られる…?」
私の影は少しづつ「もう一人の私」に吸い込まれていきます。そして、ゆっくりとこちらに近づいてきます。
その時、私は直感的に逃げなければならないと感じました。影を完全に取られたら何か大変なことになる――そう思った私は、無我夢中で廊下を走り出しました。背後から何かが近づいてくる気配を感じながら、必死に走り、職員室に飛び込みました。
職員室のドアを閉め、鍵をかけました。静かな職員室が広がっていました。そして、どのくらい時間がたったでしょう。恐る恐る廊下に出ていみると、「もう一人の私」はいなくなっていました。
あの時、影を取り戻すことはできましたが、何がどうして起こったのかは分かりません。ただ一つ言えるのは、、学校の夜には、私たちの知らない存在が潜んでいるかもしれないということです。
それ以来、私は自分の影をいつも気にするようになりました。
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