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消えた終電のホーム――終電にまつわる怪異 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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終電に乗ることが、私の生活の一部となっていた時期がありました。毎晩、仕事で遅くなり、終電に乗って帰る日々。疲れてはいるものの、駅にたどり着いて電車に乗り込むと、少し安心する瞬間があったんです。ですが、あの夜だけは違いました。あれほど奇妙で、怖い思いをしたことは今までありません。

その日も、私は仕事を終えて急いで駅に向かいました。いつものように終電に間に合い、ギリギリのタイミングでホームにたどり着きました。疲れていたので、ホームのベンチに座り、電車を待っていたんです。

電光掲示板には、次の電車が終電だと表示されていました。到着まであと数分。いつも通り、乗って家に帰るだけ――そう思っていました。

しかし、ふと周囲を見回すと、何かがおかしいと感じました。普段なら、終電前のホームには数人の乗客がいて、疲れた顔で立っているものですが、その夜は私一人しかいなかったんです。

「こんなこともあるのか…」

そう思って、特に気にはしていませんでした。人が少ないこともあるだろうと自分に言い聞かせ、スマホを取り出して時間を確認しました。すると、終電の到着時間まであと1分。

しかし――1分経っても電車は来ませんでした。

電光掲示板を見ても、何も変わらず「終電」とだけ表示されています。少し不安になりながら、もう少し待ってみることにしましたが、時間が経つにつれて、どんどん奇妙な感覚が広がっていきました。

「おかしいな…」

電車が遅れているだけかもしれないと思い、少し待ってみましたが、どうにも気持ち悪い沈黙が続きます。ホームに響くはずの電車の到着アナウンスも、駅員の声もありません。普段はどこかから漏れてくる都会の雑音も、この時だけはまったく聞こえませんでした。

ホームは、まるで時間が止まったかのように静まり返っていました。次第に、妙な不安感が押し寄せてきて、ふと気づいたんです――まるで、ここに私一人しかいないような錯覚に陥っていることに。

その時、背後から何かの気配を感じました。

振り返ると、ホームの隅に、一人の女性が立っていました。白いワンピースを着ていて、頭をうつむけているため、顔は見えません。気づかないうちに人がいたのかと思い、少しホッとしましたが、同時に、なぜこんなに静かに現れたのかが気になりました。

「終電、来ないですね…」

私は彼女に話しかけてみましたが、返事はありません。彼女はただ、ホームの端っこに立ったまま、動こうとしませんでした。

「大丈夫ですか?」

もう一度声をかけようとしましたが、その時、再び背後で物音が聞こえました。今度は反対側のホームです。

反対側を振り返ると、そこにはもう一人、別の男性が立っていました。スーツ姿のサラリーマンで、手にカバンを持ち、こちらをじっと見ている。彼もまた、突然現れたように見えました。

「いつの間に…?」

私はじっと彼を見つめましたが、彼は無言のまま、ゆっくりと歩き始め、ホームの端へ向かっていきました。その足取りは、不自然に重く、まるで何かに引きずられているように見えました。

その瞬間、私の中に一気に恐怖が広がりました。

「ここは…おかしい…」

すぐにでもホームから出たいと思い、改札に向かおうとしました。しかし、その時、電光掲示板が突然チカチカと点滅し始めました。まるで短絡を起こしたかのように、乱れる表示。そして、次の瞬間、信じられないことが起こりました。

電光掲示板の文字が、突然消えたのです。消えた、というよりも、存在が消えたかのように、電光掲示板そのものがなくなっていました。さらに、ホームの照明も一瞬暗くなり、まるで駅全体が薄暗い霧に包まれたような感覚が襲ってきました。

振り返ると、さっきまでいたはずの女性もサラリーマンも消えていました。

「ここは…どこなんだ?」

私は息を切らしながら、ホームから逃げ出そうとしましたが、改札に向かう途中で再び足が止まりました。改札の向こうには、何もない――改札の先に広がるべき通路や出口が、まるで闇に飲み込まれたかのように消え失せていたのです。

「出口がない…」

全身が冷たくなり、背筋が凍るような恐怖を感じました。戻るべき場所がなくなっていたのです。ホームだけが浮かび上がり、私だけが取り残されている。異次元のような感覚に包まれ、私はその場に立ち尽くしました。

その時――突然、駅に電車が滑り込んできました。

私は一瞬安堵しましたが、その電車には、何か異常なものがありました。車内の照明がチカチカと不規則に点滅し、窓ガラスには無数の手形がついている。さらに、扉が開いても、中には誰も乗っていませんでした。ただ、車内の座席や床には、見知らぬ人々の荷物だけが無造作に置かれていました。

この電車に乗ってはいけない――本能的にそう感じました。

私は足を引きずるようにホームの端へ逃げ出し、必死で出口を探しました。どこかに抜け道があるはずだ。必死に探し回っていると、突然、遠くから明るい光が差し込みました。

そして、目の前の景色が一瞬にして変わり、見慣れた駅のホームに戻っていたのです。電光掲示板も、改札も、すべてが元通り。駅には人々の喧騒が戻っていました。

一体、あの終電に何があったのか。あの瞬間だけ、私は別の世界に迷い込んでしまったのかもしれません。



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