その夜、私は仕事のストレスを発散するため、同僚たちと飲み会に参加していた。お酒が進むうちに、だんだんと酔いが回ってきて、気づけばかなりの量を飲んでしまっていた。終電に間に合うように急いで駅に向かい、なんとか電車に乗り込んだ。
電車が動き出すと、車内の静けさとお酒のせいで、私はすぐに眠気に襲われた。疲れもあってか、あっという間に居眠りしてしまった。
どれくらい眠っていただろうか。ふと目を覚ますと、電車はすでに停まっていた。車内には誰もいない。慌てて降りると、見たことのない駅だった。
「え…ここは…?」
見慣れた風景とはまるで違う。駅のホームには、見知らぬ文字が書かれた看板が立っている。文字の形も不自然で、日本語でも英語でもない。私は困惑しながらも、ホームを降り、改札へと向かった。
すると――そこには、普通の駅とは全く異なる光景が広がっていた。
降りたホームには誰もいない。私は出口に向かって歩いた。改札はすぐに見つかったが誰もいなかった。
おそるおそる駅を出てみると、駅に外には街が広がっていた。
街は、どこか奇妙で異様な雰囲気に包まれていた。人々が普通に生活をしているように見えるが、その一人一人がどこかおかしい。すれ違う人々の顔には、生命感がまるでなかった。目は焦点が合わず、無機質でガラス玉のよう。口元には微かに引きつった笑顔が浮かんでいるが、それはまるでロボットが無理やり笑顔を作り出しているかのようだった。
「ここは…どこなんだ?」
私は恐怖に駆られ、街の中を駆け回った。しかし、行く先々で出会う人々はみな同じ。無表情で、どこか違和感のある動きをしている。話しかけても、誰一人としてまともに反応してくれない。目が合った瞬間、彼らは口を開くが、出てくるのは理解不能な音の羅列だけだった。
「オォ……カァ……ェェェ……」
意味を成さない、ただの音。それが次々と耳に入り、ますます恐怖が募った。
「まともな人間はいないのか…?」
パニック状態になりながら、私は周囲を見回し、なんとか助けを求めようとした。しかし、街はどこまでも異様で、どこを見ても、同じ無機質な人々が歩いているだけ。体が震え、息苦しささえ感じ始めたその時――目の前に、警官のような制服を着た男が現れた。
その男は、他の住人たちとは明らかに違っていた。目には焦点があり、顔にはしっかりとした表情が浮かんでいた。彼は私を見るなり、驚いたような顔をして、ぶつぶつと何かを言い始めた。
「あー、なんでだ。どこから紛れ込んだ…」
彼は私をじっと見つめながら、眉をひそめて何かを考えている様子だった。そして、少しため息をつきながら、優しく声をかけてきた。
「もう、ここに来ちゃダメですよ。」
その言葉を聞いた瞬間、私は意識がふっと飛んだ。そして、気がつくと――自分が最寄り駅のホームに立っていることに気づいた。
「…ここは…?」
驚いて周囲を見回すと、いつもの見慣れた駅の風景が広がっていた。まるで今までの出来事が幻だったかのように、何もかもが現実に戻っている。
不安に駆られて時計を見ると、まだ終電が駅に着く前の時間だった。終電にのったのに終電が付く前の時間に私はたっている。どうやって帰ってきたんだ。そして、さっきまで見たあの奇妙な街は、いったい何だったのか。あれは夢だったのか、それとも現実だったのか――
お酒をたくさん飲んでいたはずなのに、酔いは完全に醒めていた。頭もクリアで、体に重さを感じない。どうして自分が最寄り駅のホームに立っているのか分からないが、とにかく安堵感が広がった。
「なんだったんだ、今のは…」
疑問が残るものの、無事に戻ってきたことに安堵し、私は家に帰ることにした。
家路を歩きながら、あの無機質な人々のことが頭にちらついたが、警官のような男が助けてくれたおかげで、何とか元の世界に戻ってこられたのだろうと、勝手に納得することにした。
もう、あの場所に迷い込むことはないと願いながら、私は静かに自宅へと帰った。
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