それは、仕事帰りのいつも通りの夕方だった。少し早く退社できたため、久しぶりに明るい時間帯にバスに乗って帰ることができた。オレンジ色の夕焼けが街全体を包み込み、少しホッとした気持ちでバスに乗り込んだ。
バスはそこそこ混んでいて、僕は最後尾の座席に座ることにした。乗客は会社帰りのサラリーマンや、買い物を終えた主婦たちがほとんどで、誰もがそれぞれの時間を過ごしていた。僕もスマホを取り出して、SNSやニュースをぼんやりとチェックしていた。
バスは静かに走り出し、いつもの通勤路を進んでいた。窓の外には見慣れた街並みが広がり、疲れた体を少し休めるつもりでぼんやりと外を眺めていた。仕事での疲労感が体に重くのしかかり、リラックスしながら帰れることにほっとしていた。
しかし、ふとした瞬間、何かが違うことに気づいた。
最初は何がおかしいのかわからなかったが、窓の外に目を向けると、そこに広がっていたのはいつも通るはずの商店街ではなく、見たこともない景色だった。
「え…?」
僕は思わず目を凝らして、窓の外の景色を見つめた。何かが違う。いつも通っているはずの賑やかな商店街や、立ち並ぶコンビニやスーパーが見当たらない代わりに、奇妙に歪んだ建物が並んでいた。
しかも、その風景はどこか現実味がなかった。まるで誰かが意図的に歪めたかのように、不自然に曲がった家や、屋根が異様に高い建物が続いている。そして、歩いている「人たち」も、どこか異様だった。
その「人影」は、確かに人の形をしていたが、明らかに普通ではなかった。異様に背が高い人、逆に背が異常に低い人、手足が不自然に長い人、顔が大きすぎる人。極端に身体のバランスが崩れていて、まるで歪んだ鏡に映ったような姿をしていた。中には、関節がぐにゃぐにゃと曲がっていて、まるでタコのようにくねくねと動いている人もいた。
「何だ、これ…?」
思わず声に出そうになったが、周りを見渡すと、他の乗客たちはまるで気にしていない様子だった。皆、スマホを見たり、うつむいて眠っていたりと、普段通りに過ごしている。誰も、この異様な光景に気づいている様子はなかった。
バスはさらに進み、その奇妙な街並みを走り抜けていく。僕の心臓はバクバクと音を立て、全身に冷たい汗が滲んできた。このままどこか見知らぬ世界に連れて行かれるのではないかという不安が胸を締め付けた。
すると、その時、バスの進行方向に強烈な光が現れた。まるで太陽が目の前に現れたかのように、あまりに眩しくて目を開けていられない。
「何だ…この光…?」
僕は思わず目を閉じた。光がどんどん強くなり、まぶた越しに感じる輝きがますます強くなっていく。恐怖と不安が入り混じり、心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。目を開けたいのに、眩しすぎてできない。
しばらくして、光が徐々に弱まり、やがて完全に消えた。僕は恐る恐る目を開けた。
そこには、いつもの見慣れた風景が広がっていた。
何事もなかったかのように、バスはいつもの道を走っていた。窓の外には、馴染みのある商店街や住宅街が広がり、夕暮れの街並みがオレンジ色に染まっていた。
「さっきのは、何だったんだ…?」
僕は周りの乗客たちの様子を再び確認した。誰も異常を感じていないようだった。スマホを見ている人や、窓の外を見ている人、みんな普段通りの姿だ。まるで先ほどの奇妙な景色や眩しい光なんて、最初から存在していなかったかのようだった。
僕は自分が幻でも見たのかと一瞬思ったが、心の中で確信していた。あれは確かに現実だった。僕が見たあの異様な街並みと、奇妙な人々の姿は紛れもない現実だった。
やがて、バスは自分の降りるバス停に到着した。僕はバスを降りながら、ふと最後に振り返った。車内は変わらず静かで、いつも通りのバスだった。
家に帰り、何とか落ち着こうとしたが、あの異様な風景が頭から離れなかった。時間が経つにつれて、それが現実だったのかどうか、ますますわからなくなってきた。あのバスに乗っていた他の乗客たちがどう感じていたのかも知りようがない。
でも、僕は今でも、あの奇妙な光景が頭に焼き付いている。そして、それが現実だったことを、心の奥で確信している。あの夕方、僕は確かに、異世界を垣間見たのだ。
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