怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

夕暮れのバスで見た異様な風景 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その日は、大学の講義が少し早く終わり、親友のミカと一緒に帰ることになった。ミカとは大学1年の頃から仲が良く、帰りのバスもよく一緒に乗っていた。私たちの大学は少し郊外にあって、駅までバスで行くのが一般的だった。夕方の時間帯のバスは、学生や仕事帰りの人で少し混んでいることが多い。

夕方、バス停で待っていると、ちょうどいいタイミングでバスが来た。私たちは並んで乗り込み、いつものように二人で後ろの座席に腰を下ろした。車内には、他の大学生や会社員の姿があって、いつも通りの光景だった。夕焼けが窓から差し込んで、車内は柔らかなオレンジ色に染まっていた。

「今日の講義、疲れたね」

ミカが軽くため息をつきながら言った。私も同じように感じていた。

「ほんと、それ。早く帰ってご飯食べたい」

そんな何気ない話をしながら、バスは静かに走り始めた。いつもの道を走っているはずだった。私たちはスマホをいじりながら、たまに窓の外の景色を眺めていた。

しかし、しばらくして、ミカが突然窓の外をじっと見つめて眉をひそめた。

「ねえ、ナオコ。外、なんか変じゃない?」

その言葉に、私もスマホから顔を上げて外を見た。最初は何が変なのか気づかなかったが、よく見ると、いつもの街並みとは違うことに気づいた。

いつもなら、オフィスビルや商店街が並ぶはずの道が、まったく見たことのない場所に変わっていた。そこには、奇妙な形の建物が立ち並んでいる。どれも普通の家のように見えるけれど、どこかが異様だった。屋根が不自然に反り返っていたり、建物の形が異常に細長かったり、まるで絵本の中に迷い込んだかのような光景だった。

「こんな場所、通ったことないよね?」

私は不安を感じながら、そうミカに言った。ミカも同じように驚いていた。

「いや、こんなとこ、知らない…」

さらに窓の外をよく見ると、その場所には奇妙な「人々」が歩いていた。

一見、普通の人々に見えたが、よく見ると明らかに異常だった。異様に背が高い人、逆に異様に小さい人、手足が不自然に長すぎる人、顔だけが異常に大きい人。それに加えて、体の関節がくねくねと奇妙に曲がっている人までいた。まるで、人間の形をしているけれど、そのバランスがどこか狂っているかのような、不気味さが漂っていた。

「…怖い、これ、何?」

ミカが小さな声でつぶやく。私も心臓がドクドクと高鳴り、息苦しくなっていた。なんだ、この光景は。今までこんな場所を通ったことなんて一度もないはずなのに、バスは確かにこの奇妙な街を進んでいる。

周りを見渡すと、他の乗客たちも異様な風景に気づき、明らかに動揺していた。ざわざわと不安そうな声が上がり、乗客たちが窓の外を指さして、恐怖に怯えている様子が伝わってきた。

「何これ?」「怖い、なんか変だよ…」

皆が一斉に不安を募らせ、バスの中が次第に混乱し始めた。誰もがこの異常な風景を理解できず、ただ怖がっている。私たちも周りの様子に同調して、ますます不安が増していく。

バスは、その奇妙な街並みを進み続けた。心の中では、どうしてこんなところを通っているのか、どこに連れて行かれるのかという恐怖が渦巻いていた。ミカも私も、ただ手を握り合いながら、バスがこの風景から抜け出すことを祈るしかなかった。

すると、突然、バスの進行方向に強烈な光が現れた。まるで太陽がすぐ目の前に現れたかのように、あまりに眩しくて目を開けていられないほどだった。

「目を閉じて!」

ミカが叫び、私も急いで目を閉じた。光はどんどん強くなり、まぶた越しでもその輝きが感じられるほどだった。心臓が激しく鼓動し、全身に冷たい汗が流れた。

しばらくそのまま目を閉じていると、光が徐々に弱まり、やがて完全に消えた。

「もういいかな…」

私が恐る恐る目を開けると、そこにはいつもの風景が広がっていた。

バスはいつもの道を走っていて、窓の外には見慣れた住宅街や商店街が広がっていた。夕暮れの柔らかな光に包まれ、何事もなかったかのような平和な風景だった。

「あれ、元に戻ってる…」

私は戸惑いながら、ミカに話しかけた。ミカも同じように驚いていたが、何も答えられず、ただ私と顔を見合わせた。

周りの乗客たちも、一瞬の混乱が嘘のように、みんな普段通りに過ごしていた。さっきまでの恐怖や不安はどこへやら、誰もがスマホをいじったり、外を眺めたりしている。まるで、さっきの異様な風景なんて最初から存在しなかったかのようだった。

「さっきの、何だったんだろう…?」

ミカが不安そうに言う。私も同じ疑問を抱いていた。あの奇妙な街並み、人々、そしてあの強烈な光。それが現実だったのか、夢だったのか、まったくわからなかった。

バスはいつもの道を走り続け、やがて私たちのバス停に到着した。私とミカは降りながらも、さっきの出来事について話し続けていた。

「あの景色、確かに見たよね?」

「うん、夢じゃない。確かにあった…」

私たちはお互いに確認し合いながら、その出来事を頭から追い出すことができなかった。何だったのかは今でもわからないが、あの異様な風景が現実だったことは間違いなかった。

今でもミカとはたまに会って、あの日の話をする。今でも、あの時見た異世界の光景は、二人の心に深く刻まれている。



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