大学を卒業してからしばらく経ったある夏、私は親友の拓也と二人で温泉街への旅行を計画していた。お互い仕事が忙しく、なかなか会えなかったが、久しぶりに一緒に出かけることにワクワクしていた。目的地は、山間の静かな温泉地で、観光客も少なく、自然に囲まれた小さな村だった。
その村は古い建物が多く残っており、特に廃墟となった古い旅館や蔵が目を引いた。私たちはカメラが趣味だったので、そうした場所での写真撮影を楽しみにしていた。村に到着したのは夕方で、柔らかい夕日が古びた建物を照らし、何とも言えないノスタルジックな風景が広がっていた。
私たちは旅館に荷物を置き、村を歩き回って写真を撮ることにした。古い土蔵や石垣の前で、記念写真を撮ったり、趣のある建物を背景に風景写真を撮ったりしていた。中でも、一つ特に印象的だったのは、廃墟となった大きな木造の家屋だった。外観は崩れかけていて、窓ガラスは割れ、周囲には雑草が生い茂っていたが、その寂れた感じが妙に魅力的だった。
「ここ、すごく雰囲気あるな」と、拓也が言い、私も頷いた。「せっかくだから、この前で写真撮るか」と彼が言い、私はカメラを取り出し、彼と一緒に家の前で写真を撮った。特に何の違和感もなく、カメラのシャッターを切った瞬間も、ただその場の雰囲気を楽しんでいただけだった。
その後、温泉に浸かり、夕食を食べてから部屋に戻り、私は撮った写真を確認していた。何枚かの風景写真や拓也との記念写真を見返していると、ふと、廃墟の前で撮った写真に違和感を感じた。私たち二人が笑顔で立っているはずのその写真に、誰もいないはずの「第三の人影」が映っていたのだ。
その人影は、私たちのすぐ後ろに立っていて、髪の長い人物がぼんやりとこちらを見ている。服装も古めかしく、しかもその顔はぼんやりとしてはっきりと見えない。しかし、確かにそこに誰かが立っているように感じた。私は一瞬目を疑い、別の写真と見比べたが、他の写真には何もおかしな点はなく、問題の写真だけにその人影が写り込んでいた。
「おい、これ見てくれ」と私は拓也にスマホを見せた。彼は写真を見て、しばらく言葉を失っていた。「…これ、誰だよ?」と、ようやく口を開いた時、その表情からも戸惑いが読み取れた。私たちは確かに、あの廃墟の前では誰もいなかったことを覚えているし、他の観光客がいたわけでもなかった。
「気味が悪いな…」と、拓也が呟いた。私は恐怖心を抑えつつ、冷静に考えようとした。風の影響か、光の反射か、それともカメラの不具合か。いろいろと原因を考えたが、どうにも説明がつかない。
結局、私たちはその写真の話題を深追いすることなく、すぐにその夜は寝ることにした。しかし、写真を見返すたびに、やはりどうしてもあの人影が気になった。旅館の部屋の中も妙に静かで、その写真の存在が頭から離れなかったが、無理やりに眠りについた。
翌朝、私たちはその村を離れることになった。写真のことを無理に話題にすることはなく、旅自体は楽しかったが、やはり心の奥には妙な違和感が残っていた。
それから数年が経ち、私たちはそれぞれの生活に戻っていった。仕事で忙しくなり、あの旅行のことを話す機会も少なくなったが、たまに連絡を取って食事をすることもあった。ある日、飲みの席でふと思い出したように拓也が言った。
「そういえばさ、あの廃墟で撮った心霊写真、まだ覚えてるか?」
私は少し笑いながら、「ああ、覚えてるよ。あれ、マジで何だったんだろうな」と返した。
「本当に誰だったんだろうな。あの時はビビったけど、今となっては笑い話だな。でも、あれ以来心霊写真なんて撮れたことないし、あれが最初で最後かもな」
「そうだな、あれは不気味だったけど、今思えば、いい思い出だよな」
二人であの奇妙な体験を振り返りながら、なんとも言えない笑いを交わした。あの時の写真はもう手元にはないが、二人で共有したあの体験は、今も私たちの中で特別な記憶として残っている。
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