私と親友の美咲は、大学時代からの付き合いで、仕事の合間を縫って定期的に一緒に旅行に出かけるのが恒例だった。ある時、私たちは久しぶりに時間が合い、静かな海辺の町へ二人旅に行くことになった。海岸線が広がる小さな町で、観光客も少なく、のんびりできる場所を探していたのだ。
その町は、風情のある漁港や古い街並みが残っていて、どこか懐かしい感じが漂っていた。私たちはチェックイン後すぐに、夕暮れの海辺を散歩することにした。心地よい海風に吹かれながら、美咲と二人で写真を撮り合い、楽しいひとときを過ごしていた。
その日、特に印象に残っていたのが、港近くにある小さな展望台だった。高台に建てられた展望台からは、夕日が沈む美しい景色が一望でき、海が黄金色に輝いていた。私たちはそこで写真を撮ろうと、美咲がスマホを取り出し、自撮りをしようとした。しかし、夕日を背にすると逆光になってしまい、うまく撮れない。そこで私は、自撮りではなく、互いに写真を撮ることにした。
美咲が私を撮って、次に私が美咲を撮ることになり、彼女は展望台の柵に寄りかかりながらポーズをとった。私は彼女を背景に、夕日と海が映るように構図を決めてシャッターを切った。笑いながら、普通の旅行写真を撮っていた。
その夜、旅館に戻り、夕食を終えた後、私たちはベッドで撮った写真を確認していた。スマホの画面に映る旅行写真を一枚一枚見返しながら、思い出を振り返っていた。すると、問題の写真に差し掛かった時、私は思わず動きを止めた。
「美咲、これ…」と、私は彼女にスマホを見せた。彼女も一瞬言葉を失った。
その写真は、展望台で撮った美咲の写真だったが、彼女のすぐ隣に、もう一人の人影がはっきりと写り込んでいたのだ。その人影は、私たちがその場で見た覚えのない中年の男性で、少し遠くを見つめているような表情をしていた。問題は、その場所には絶対に誰もいなかったことだ。
「この人、誰？こんなのいた？」と、美咲が驚いたように言った。
「いや、絶対にいなかったはず。あの展望台、他に誰もいなかったよね？」私はそう返したが、心の中で不安が広がった。誰かが背後に忍び寄ったということも考えられないし、何より、その男性の姿は半透明で、周囲の景色に溶け込むようにぼんやりしていた。
「なんか、ただの反射じゃないよね…？」美咲も不安そうにスマホを見つめていた。
「うん、これはどう見ても反射じゃない。完全に人が写ってる。でも、こんな人、そこにいなかったし…」私たちは、しばらく言葉を失ったまま写真を見つめたが、やがて気味悪さに耐えきれなくなり、その写真の話題を避けることにした。
「まあ、忘れようか…」美咲が苦笑いしながらそう言い、私も「そうだね、こんなこと気にしてたら旅行が台無しになるし」と同意した。結局その夜、私たちは写真のことを話題にしないまま、無理やり眠りについた。
その後の旅行は楽しく過ごしたが、私たちの心の中には、あの展望台で撮った奇妙な写真がずっと引っかかっていた。そして、旅行が終わり、帰宅後もその写真のことは私たちの頭の片隅に残り続けていた。
それから数年が経ち、私たちは社会人として忙しい日々を送りながらも、時折連絡を取り合うことがあった。ある日、久しぶりに美咲と食事をすることになった。お互いの近況を話している中で、ふと思い出したように彼女が言った。
「ねえ、あの時の写真、まだ覚えてる？」美咲が、懐かしそうに微笑んだ。
「もちろん。あれ、今思い返しても不思議だよね。誰だったんだろう…」私は笑いながらも、あの時の違和感を思い出していた。
「なんかさ、あの時はすごく怖かったけど、今思うとあれもいい思い出だよね。変なことが起きたけど、楽しかったし」
「そうだね、あの写真があったから、二人の旅行がちょっと特別なものになった感じもするよね」
私たちはその奇妙な体験を思い出しながら笑い合った。あの時の心霊写真は、確かに不気味で奇妙なものだったが、今となってはただの思い出の一部であり、二人だけの秘密のような特別な体験となっていた。
今でもその写真は、私のスマホの中に残っているが、あの時の恐怖はすっかり消え、むしろ少し懐かしいものとして大切にしている。
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