秋も深まる夕方、大学生の美咲は、久しぶりに田舎の実家へ帰ることにした。家族とは疎遠になっていたが、祖母が体調を崩したという知らせを受け、少し気になっていたのだ。実家は山に囲まれた小さな村にあり、昔はその自然豊かな環境が好きだったものの、都会の大学生活に慣れてからはあまり足を運んでいなかった。
電車とバスを乗り継いで、夕方にようやく村へ到着した。空は少し曇りがかり、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。久しぶりの風景に懐かしさを感じつつも、同時に心のどこかで違和感を覚えた。子どもの頃の記憶にある村とは何かが違って見えたからだ。
実家の門をくぐると、母が出迎えてくれた。祖母の様子を尋ねると、体調は落ち着いているというが、祖母が時々「奇妙なこと」を口にしているという話を聞かされた。
「最近、背中に『目が見える』って言うのよ。誰かがじっと見てるって」
その言葉に美咲は戸惑ったが、年を取ったから気にしすぎなのだろうと思い、特に深く考えなかった。だが、その晩、祖母と顔を合わせた時、その言葉が急に現実味を帯びてきた。
夕食を済ませて祖母の部屋に入ると、ベッドに横たわる祖母がこちらをじっと見つめていた。表情はどこか虚ろで、昔の元気だった祖母とはまるで別人のようだった。
「おばあちゃん、具合はどう?」美咲が問いかけると、祖母はゆっくりと首を横に振った。
「背中がね、ずっと誰かに見られているのよ。あんたも気をつけなさい…」
その言葉に、美咲は思わず背筋がぞくっとした。背中に視線を感じるような違和感が一瞬走り、思わず部屋を見渡したが、誰もいない。ただの気のせいだろうと自分に言い聞かせ、祖母を慰めるように言葉をかけたが、その夜、美咲は奇妙な感覚に襲われ続けた。
眠ろうとベッドに横になっても、背中に何かの気配がまとわりつくような感じがする。何度も振り返ったが、当然、部屋には誰もいない。布団をかぶって寝ようとしても、背中に視線が突き刺さる感覚が消えなかった。まるで、何かが自分の後ろに立っているかのように。
翌朝、美咲は気味悪さを振り払うようにして起き上がり、日課である村の散歩に出かけた。懐かしい村の風景に、少しだけ心が落ち着いた気がした。しかし、ふとした瞬間、背後に何かを感じた。振り返ると、確かに誰もいない。しかし、その視線はどこからかずっとついてくるように感じられた。
その夜、祖母が再び「目が見える」と言い出した。美咲は内心恐怖を覚えながらも、その言葉を無視することにした。しかし、夜が更けるにつれて、背中の不快感が再び強まっていった。何かがいる。そう確信していた。
眠れないままベッドの上で横になっていると、部屋の電気がふっと消えた。停電だろうかと思い、起き上がって電気をつけようとした瞬間、背後に何かがいる気配を感じた。振り返ろうとしても身体が動かない。全身が固まったまま、背中に何かが触れている感覚だけが伝わってくる。
「見える?」耳元で、かすれた声が聞こえた。まるで風に乗って聞こえるようなその声は、確かに誰かが背中で囁いているのだ。美咲は恐怖で息を詰まらせたが、その時、部屋の窓ガラスに映った自分の姿を目にして凍りついた。
窓ガラスに映った自分の背中には、はっきりと「目」が見えていた。それは人間の目ではなく、影の中に浮かび上がるようにゆらめく不気味な瞳だった。まるで別の存在が自分を支配しているように、その目は美咲をじっと見つめていた。
美咲は恐怖に耐えきれず、叫び声をあげて母親の部屋へ駆け込んだ。母親にすがりつき、泣きながら「背中に目がある」と訴えた。しかし、母親には何も見えていなかった。背中を確かめても、何も異常はないという。
次の日、美咲は急いで実家を後にした。村を出る時、背中に感じた重苦しい視線が消えることはなかった。振り返っても、そこには誰もいない。しかし、あの「影の瞳」は確かに美咲を追い続けていた。
それからというもの、背中の視線はどこに行っても感じ続けることになった。
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