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異質な図書館――奇妙な本と偽りの人間たち 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その日は久しぶりに休みが取れ、ゆっくりと過ごすために図書館へ行くことにした。自宅からほど近い場所にあるその図書館は、よく訪れていた場所だったが、今日はどこか違和感を感じながら足を踏み入れた。

「なんだか、いつもと違う気がする…」

入口を通り抜けた瞬間、私は直感的に何かが違うことを察した。静かさはいつもと同じなのに、空気が重苦しい。棚に並んでいる本に視線を向けると、その違和感はさらに強まった。

「これ…なんだ?」

本の背表紙には、見たこともない奇妙な文字が並んでいた。日本語でも英語でもない、まるで奇妙な記号や図形が無作為に組み合わされたようなものばかりだ。どの本も、異様な雰囲気を漂わせている。私が普段見慣れているような本は、一冊もなかった。

「こんな本、ここにはなかったはず…」

私は手に取ってみようかと躊躇したが、その表紙に触れるのが怖くなり、指先が止まった。周りを見渡すと、図書館の中はほとんど無人のように閑散としている。普通なら休日の午後ともなれば、多くの人が本を読んだり勉強しているはずだが、今日は何かが違っていた。

「誰もいないのか…?」

そう思った瞬間、視界の端に人影が見えた。数名の人が、静かに読書をしている。安心感が少しだけ戻り、私はその方向へ歩み寄ろうとしたが、次の瞬間、全身に寒気が走った。

彼らの姿をよく見ると――普通の人間ではなかった。

読書をしている「人々」の表情は、どこか不自然だった。彼らは無表情で、ページをめくる動作もぎこちない。まるで本を読んでいるという行為そのものを模倣しているかのようだった。

彼らの目に目をやると、焦点が合っていないことに気づいた。まるでガラス玉のように無機質で、どこを見ているのか分からない。顔には、微かに引きつった笑みが浮かんでいたが、それは人間らしさを欠いた不自然なものだった。まるで、何かが「人間」を模倣しようとして失敗したかのような表情だ。

「……」

私は足がすくんで、声を発することもできなくなった。全身に恐怖が走り、冷たい汗が背中を流れる。

一人の男が、ゆっくりとページをめくる。だが、その動作はあまりにも機械的で、まるでロボットのようだった。私は、恐る恐る声をかけようとしたが、その瞬間、彼の顔がこちらに向いた。

彼の目は無機質なまま、口元だけがぎこちなく動いていた。まるで何かに引っ張られているかのように笑みを作り出し、そのまま私をじっと見つめている。

「ォ……」

彼の口から漏れた音は、言葉ではなかった。単なる音の羅列に過ぎない。それは、まるで人間の言葉を真似しようとしているようなものだが、何一つ意味を成していない。ただ、奇妙な音が空間に響くだけだった。

私は恐怖に駆られ、その場から一歩後ずさりした。周りを見ると、他の「人間」たちもみな同じだ。無表情で、無機質な目をして、無言で本を読んでいる。どの顔にも、生気を感じない。彼らの動作は一貫して機械的で、自然さがまるでなかった。

「ここ、どうなってるの…?」

心臓の鼓動が早まり、息苦しさを感じ始めた。私は逃げ出したい気持ちを抑えながら、何とか平静を保とうと図書館を後にすることを決意した。

その瞬間――

「カタン」と、背後で本を閉じる音が響いた。私は背筋に冷たいものを感じながら、ゆっくりと振り返った。

そこには、制服を着た警察官のような男性が立っていた。彼は私に目を向け、ため息をつきながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。

「また、こんなところにも紛れ込んでしまったのか…」

彼はそうつぶやきながら、私に優しく声をかけた。

「もう、ここには来ちゃダメですよ。」

その瞬間、私の意識がふっと揺らいだ。そして気づくと、図書館は元の静けさを取り戻していた。周囲を見渡すと、普通の本が並んでいる。奇妙な記号で書かれた本も、無機質な「人間」たちも、すべて消えていた。

「何だったんだ、今のは…」

私は自分の手を見つめながら、急いで図書館を後にした。外の空気が冷たく、現実感を取り戻していく。それでも、あの偽りの人間たちの不自然な動きと無表情が、頭から離れないままだった。



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