怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

会社帰りに濃い霧に包まれた男が迷い込んだ白黒の世界で待っていた結末とは? 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その日はいつも通り、仕事を終えて会社から家へと帰る道だった。疲れた体を引きずりながら歩いていると、突然、濃い霧が街全体を包み込んだ。普段は賑わっている通りが、一瞬にして見渡す限り白い霧に覆われ、視界はまったく効かない。

「こんな濃い霧、見たことないな…」

不安が胸をよぎったが、家までの道を知っているから迷うことはないだろうと、足を進める。だが、歩き出してすぐに奇妙なことに気づいた。霧の中から浮かび上がる建物や道路の風景が、どこか違う。

周囲のすべてが、色を失って白黒に変わっていたのだ。信号機も車も、すべてがグレーやモノクロに変わり果てていた。そして異様だったのが、そこにいたはずの人の気配も、どこかに消え去っていた。

「なんだ…これは…?」

声を出しても、返事はなく、ただ無音の白黒の街が広がっているだけだった。霧は濃く、街灯も、信号の色も失われ、まるで古い映画の中に迷い込んだかのような世界が続いている。

恐怖がじわじわと全身を蝕んでいく中、家に帰ろうと焦りが募った。道はいつも通りに見えるが、そこにあるべき音や色がなく、何かが根本的に狂っているのがわかる。早足で進むが、どの道も白黒の風景で、まるで出口のない迷路に迷い込んだ気分だった。

ようやく自分の家にたどり着いたとき、安堵の気持ちが湧いた。玄関の扉を開け、中に飛び込んだ瞬間、そこに広がっていたのは、全く異なる世界だった。

自宅の内部には、色があった。壁、家具、そして空気そのものが生気を取り戻したように、普通の彩りが広がっていた。しかし、そこには誰かがいた。リビングのソファに、見知らぬ女性が座っていたのだ。

彼女は、不自然なほど鮮やかな色を身にまとい、僕に微笑みかけた。

「ようやく戻ってこれたわね。ここがあなたの出口よ。」

その声は優しく、落ち着いていたが、どこか現実離れしていた。驚きで声も出ず、ただその場に立ち尽くしていると、彼女は立ち上がり、ゆっくりと僕に近づいてきた。

「あなたは、間違った世界に入ってしまったの。でも大丈夫、私が元の世界に戻してあげる。」

彼女はそう言って、手を差し出した。戸惑いながらも、その手を取ると、体に温かい感覚が広がっていった。気がつけば、さっきまでの白黒の世界は徐々に溶けるように消え、現実の世界の色が戻ってきた。

部屋の中も、外の景色も、すべてが元通りになっている。

「…夢だったのか?」

そう思い、振り返ると、彼女の姿は消えていた。家の中は元通りだが、彼女の鮮やかな色だけが、記憶の中に強く残っていた。

あの白黒の世界は一体何だったのか。そして、彼女は誰だったのか。その答えは、今もわからないまま、ただ色のある現実に戻ってきたことだけが、確かな事実だった。



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