それは、いつものランニングコースを走っていた夜のことだった。私は仕事のストレスを解消するため、毎晩のように近所の公園をランニングしている。風が心地よく、静かな夜道を走ることが何よりのリフレッシュだった。
その日も同じように、公園の周回コースをいつものペースで走っていた。ランニング中は特に考え事をすることもなく、ただリズムよく呼吸を整えて、足を進めていく。街灯の下を通るたびに影が長く伸び、夜の公園は静けさに包まれていた。
だが、その静けさがいつもと違うことに気づいたのは、走り出してしばらくしてからだった。周囲に漂う空気が重く、街灯がぼんやりとしか見えない。
「なんだかおかしい…」
そう感じた瞬間、突然、濃い霧が現れた。霧はあっという間に公園全体を覆い、目の前がほとんど見えなくなった。私は足を止め、立ち止まったが、そこから見える景色に息を呑んだ。
公園は、すべての色を失っていた。木々、ベンチ、噴水、すべてがモノクロに変わってしまっていたのだ。街灯の光すらも白黒で、まるで映画の中の一場面のように現実感がなかった。
「これって…何?」
目を凝らして周囲を見渡しても、人の姿はなく、音も消えていた。足音さえも吸い込まれるように消えていく。私は恐怖で胸が締め付けられ、走って帰ろうとしたが、足がすくんで動けない。
何とか気を落ち着け、再び歩き始めたが、公園の中は迷路のように変わっていた。いつも通っている道なのに、出口が見つからない。何度も同じ場所を通り過ぎ、焦りが徐々に募っていく。
そのとき、遠くのベンチに誰かが座っているのが見えた。胸が高鳴る。誰か、私と同じようにここに閉じ込められた人がいるかもしれないと思い、急いで駆け寄った。
「すみません、助けてください!」
私は叫びながらその人物に近づいた。しかし、近づくにつれて、その人物が異様なことに気づいた。彼はまるで動かない。白黒の影のようにそこに存在しているだけだったのだ。
不安が一気に広がり、立ち止まった瞬間、その影のような人物は、ゆっくりと消えていった。私は恐怖でその場を後退りし、再び出口を探して歩き続けた。
どこに向かっているのかわからず、ただ必死に歩き続ける中、突然、目の前に色が現れた。そこには、一軒の家がぽつんと建っていた。奇妙なことに、その家だけは鮮やかな色彩を放っていたのだ。
「どうして…?」
恐る恐る家の中へ入ると、女性が立っていた。彼女は美しい色をまとい、柔らかな笑みを浮かべていた。
「迷い込んだのね」
彼女の声は優しく、どこか安心感を与えてくれるものだった。
そっと私の手を取った。その瞬間、体が温かくなり、外のモノクロの世界が溶けるように消えていった。白黒の公園は色を取り戻し、夜の静けさが再び戻ってきた。
私はしばらく呆然としていたが、家へと向かう足取りは不思議と軽かった。
あの白黒の世界は何だったのか。そして彼女は誰だったのか。すべての答えはわからないままだが、もう二度と迷い込まないよう、私は自分を強く信じて進んでいこうと思った。
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